7「しりとりで語ろう」
「しりとりって知ってる?」
彼女、クラスメイトの斎岡はそう口にした。
「ケンカ売ってんの?」
「おお、いつのも増して好戦的な猫路地さんだ」
「馬鹿にされたらそりゃ言うよ」
私の名前は猫路地。
「で、知ってる?しりとり」
「やっぱりケンカ売ってるだろ斎岡。知ってるに決まってる」
「ほんほんほん。んじゃあ、しりとりってもんがどういうモノか答えてもらおうじゃあないか。もしくはその屏風の虎を捕まえてみせよ」
「バカも休み休み言え」
「一休だけに?」
「お前が通る橋の真ん中に穴開けといてやる」
「ほらほら、答えなさいな。猫路地さんよ」
「しりとりって言えばあれだよ。相手の言葉尻を捉えて不備があったら勝利宣言すれば良いんだろ。はい論破って」
「なんか猫路地の認知、歪んでない?」
「それでうんともすんとも言わせないくらい煽り倒せばいいんだろ」
「うんもすんも『ん』がついてるから言えないよ猫路地」
「で、それがどうした」
「ふっふっふ、実はね猫路地。斎岡はしりとりの必勝法を知ってしまったのだよ。インターネットの海をVoyageすること四十秒。斎岡は真理にたどり着いた」
「ネット回線遅そうだから変えたら?」
「というわけで、猫路地をけちょんけちょんにするべく準備してきたのだ!その前哨戦としてしりとりを知っているか確認したんだよ!」
「始まる前から煽り倒すな」
「しりとり」
「理解を脳が拒むレベルのスピード感にびっくりだよ。斎岡」
「か、か、価格カルテル」
「類を見ないレベルの愚かさだよお前は」
「は、は、肺尖カタル」
「流転無窮って言葉がぴったりだよ。バカだね」
「ね、ね、根腐る」
「ちょっと待って。なんでさっきから受け答える単語が全部ネガティブなの?」
「『ち』じゃなくて『る』だよ猫路地?」
「分かってるけど分かんねえよ」
「駄目だな〜猫路地。ルールは守らないと」
「斎岡はもっと対人間へのルールを守れ」
「で、気づいていたかな?実は斎岡、最後が『る』で終わる単語で攻めていたのですよ!」
「知ってる」
「猫路地も『る』攻めか〜」
「そういう『る』じゃねえよ。もっと普通に来なよ。毎回単語言うにもめちゃめちゃ悩んでたし」
「しょうがないな〜。斎岡は手加減できる優しい子なのです。今日だけだよ」
「手加減も何も『る』攻め知らなかったやつに言われたくないよ。それと今日しかやらないよ」
「しりとり」
「だから急だって」
「『だ』じゃなくて『り』だよ」
「そういう意味じゃなくて」
「『そ』じゃなくて『り』だよ」
「理解できね〜」
「ね、ね、...ね?」
「嘘だろ?斎岡」
「あ、猫路地!」
「...まあいいか。蕁麻疹」
「ンガイ島」
「...ウラン」
「ンゼレコレ」
「...蓮根」
「ンガパリ」
「なんで『ん』から始まる言葉への造詣は深いんだよ」
「『な』じゃなくて『り』だよ」
「わかったわかった!...りんご」
「ご、...ごま!」
「魔法」
「う、う?...うに!」
「ニラ」
「ら、ら、ら、...ラッパ!!」
「パース」
「すき」
「切り札」
「だいすき」
「.....キャビア」
「愛してる」
「......。」
「......。」
「.....。」
「猫路地」
「...なんだよ」
「『る』だよ」
「......ルッコラ」
「落胆」
「んん!?なんでだよ!」
「よよよ!?あれあれ!?ごめんごめん!『ん』がついちゃった!斎岡ったらほんとしりとりヘタくそ!」
「それもそうだけど!」
「どれもどうなの?」
「どうもこうもない!」
「いやいや〜。何かあるっしょ。猫路地ともあろうものが慌てふためいて。斎岡に教えてくれや〜。な〜猫路地さんや〜。斎岡に教えてくれや〜」
「やいのやいの言わないで!」
「でも慌ててるのは本当じゃない」
「いやそんなことないから!なんでもないやい!」
「言い返す時に『やい』って付ける人初めて見たよ斎岡は。あ、そうだ。それはそれとして猫路地さん。負けたものには罰ゲームがあるってのはご存知だよね?」
「寝耳に水なんだけど。それに私が勝ったと思うんだけど」
「どうしても、っていうならもう一回チャンスあげるよ?」
「よしてよ。もう帰る。斎岡なんて知らない」
「いやいや、猫路地〜。ゴメンって!冗談冗談!」
「...。」
「猫路地〜?」
「...ふふ、『ん』がついたから私の勝ちだ。斎岡」
「え?...ええ〜!?それは卑怯だよ!猫路地!」
「じゃ、アイス奢りね」
「猫路地とのしりとりは懲り懲りだよ〜!!」
こうして今日も、斎岡との放課後は過ぎていった。
ありがとうございました