２ 「余り物だね」
「カズノコって何？」
彼女、クラスメイトの斎岡はそう口にした。
「......たまご？」
「お弁当の残りにカズノコあるんだけど、猫路地、食べる？」
私の名前は猫路地。
「いらねえよ。いま放課後だよ？正気か？」
「大丈夫、勝機はあるよ」
「これっぽもねえわ。そもそも弁当にカズノコは狂気だよ。どうなってるんだよ斎岡家」
「陽気なママが入れちゃってましてね」
「超危険だよ、常軌を逸してるママだな」
「最近、上機嫌でね。なんかいっぱい買ってきたらしい」
「いま梅雨だよ？そんなにカズノコって売ってるもの？」
「売ってなきゃ入らへんやろぉ〜？それとも何かい？カズノコが自ら湧いて出てきたってぇのかい？」
「なにその喋り方」
「で、猫路地や。なんの卵なのかな？カズノコって」
「さかな」
「ほお！ってぇと、斎岡ママがカズノコ生産生物のお魚から奪い取ってきたってぇことだな！」
「陽気に生き物の卵を奪いにかかるママは、あまりにも絵面が凶悪犯罪者のそれと変わらないと思うんだけど。」
「で、カズノコってそんな簡単に掠め取れるものなのかなと、斎岡は思いまして」
「この形状を掠め取るのは暗殺者か外科医しか不可能じゃないかな」
「そう思うでしょ？斎岡も賢いからそう思ったんですよ。ママが暗殺者の可能性が5割、外科医が4割、魚であるが1割の可能性だと」
「普通にママと別個体の魚の卵が正解だと思うけど。そもそも賢いなら、お手手に持ってるスマホで調べる知能があると思うんだけど」
「てかLINEやってる？」
「それは使い方を間違っている」
「てか彼氏いる？」
「いねえよ」
「斎岡も猫路地さんも余り物だね。まるで私の弁当箱のカズノコのように」
「うるせえわ」
「え〜斎岡調べによると、カズノコはニシンの卵です」
「へー。そうなんだ」
「斎岡感動だよ。こんな小さなツブツブに、命が宿っているんだね」
「もうだいぶ宿ってないんじゃないかな？」
「こんなにいっぱい生まれても、生き残るのは少しだけなんだろうね。で、そこから結婚して子をなすニシンもまた少し」
「魚類は結婚って概念ないと思うけど、まあそうだね」
「斎岡も猫路地も、そんなあぶれた数に残らないようにしようね。カズノコだけに」
「うるせえ」
「じゃあ、お相手がいなくとも、せめて斎岡と猫路地さん。二人で幸せハンブンコ。ハイおすそわけ。あーんしろ」
「いらねえよ」
「斎岡のやつなのに？」
「......しょっぱい」
こうして今日も、斎岡との放課後は過ぎていった。
２わ おしまい
ありがとうございました
