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日常

 さらに翌日の午前中、今回の調査隊の死亡者の軍葬が行われた。

 城の中庭に、調査隊の生存者、傭兵部隊、海軍の関係者、犠牲者の家族などが集められ、厳粛な雰囲気で葬儀は進行した。

 司令官ルツコイ、海軍司令官ベススメルトヌイフが弔辞を述べ、私も続けて犠牲者の名前を一人一人呼び、彼らとの思い出を短く述べた。

 彼らを殺した“敵”がチューリンだったことが、まだ頭の中で整理できていない。今回の一件は、わからないことが多すぎる。ルツコイも、この件の緘口令を引いている。この事をこのまま無かったことにするつもりなのだろうか?


 葬儀は、今回は海軍の伝統に則り、締めくくりに花束を中庭から運び、海軍の埠頭から海に投げ入れることで終了した。

 葬儀の終了後、私は遺族の何組かから、詰め寄られてしまった。これまでの傭兵部隊はさほど危険な任務はなく、家族としては隊員が落命するという心の準備ができていない者も多かったのだろう。私は謝罪以外、何も言葉が出なかった。


 葬儀の終了後、酸の霧で焼かれれ治療を受けているアグネッタの様子を見に行った。彼女は下船後、城の医務室で治療を受けている。医務室では、これまでと変わらず、ソフィアが付き添っていた。聞くと、付き添っている時間は多いという。私は部屋の外で医師に容態を聞いた。医師曰く、容態は徐々に良くなってきているという。しかし、完治には最低三か月はかかるということだ。ともかく、私はアグネッタが少しずつとは言え、良くなっていると聞き、安堵した。


 午後には、傭兵部隊の修練所を見回って隊員達の様子を見たり、夕方にオットーに剣の指導をした。


 次の日も同様に傭兵部隊の案件の仕事をこなしたりして、徐々にこれまでの日常のルーチンが戻りつつあった。ただ、城内で帝国軍の関係者に会うと、そのたびに調査隊の任務を完遂したことを称賛してくれる。軍関係者の私と傭兵部隊を見る目が明らかに変わったようだ。その点が以前と違っている。

 そういえば、傭兵部隊の新たな隊員募集もしないといけない。調査隊の一件では、七十名もの犠牲者を出したので、新たに募集をして補充をしないといけない。ルツコイからは傭兵部隊は、大体二百名を常に在籍させるように言われている。

 次はすこし足を延ばして、近くの宿場町などでも募集を掛けてみるか、など考えたりした。


 そうして、あのレジデンズ島での死闘が悪夢の出来事であったのか、と思うほど平穏な日常が戻りつつあった。そして、帰還してから、かれこれ十日ほどが過ぎたであろうか、私はルツコイに呼び出された。


 私は、執務室を訪問した。すると、ルツコイは開口一番に言った。

「陛下が君をお呼びだ。陛下は今回の君の任務完遂を大変お喜びで、君をぜひ慰労をしたい、ということだ」。

 ルツコイは、そのことが書いてあるのであろう書類を高く上げて見せた。

 また、首都に行けということか。

 ルツコイは続けた。

「今回も弟子を連れて行っても構わん。あとは道中、帝国軍の衛兵が付く」。

「衛兵?」

 私は言葉を返した。

「そうだ、衛兵だ」。ルツコイは、なぜか嬉しそうに続けた。「これも皇帝からの命令だ。君は、調査隊の任務を達成し生還したことで、もう帝国では“英雄”扱いで重要人物だ。それを自覚してくれ」。

 英雄?重要人物?

 そういわれても、私はまったくピンと来なかった。

「そして」と、ルツコイは打って変わって真剣な表情に戻り、話を続けた。「首都に送った私の報告では、君が倒した相手が、チューリンだったということは伏せてある。実は、首都の者に遠回しにチューリンはどうしている、と尋ねたが、いつも通り皇帝のそばにいる、と報告があった」。

「やはり、私の見間違いだったと?」。

「そうかもしれんし、そうでないかもしれん」。と、ルツコイは、含みのある言い方で話した。そして、彼は改めて私に向き直って尋ねた。「君が、首都で一番信頼できると思う人物は誰だ?」

「皇帝親衛隊の隊長ヴァシリーサ・アクーニナです」。

 私は即答した。

「そうか」

 と、ルツコイは言うと、ニヤリと笑った。

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