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歓迎

 我々三人は、しばらく翼竜と兵士の様子を見ていた。翼竜は完全に動かなくなった後、兵士達と重装騎士団はそれぞれ整列をはじめ、撤退の準備を始めているようだ。あとは魔術師と、どこからともなく現れた別の一団が翼竜の死体を調査しているようだ。

すると突然、「そこの君たち!」と、どこかで聞いた声がした。

 声の方を振り向くと、城のベランダで会った重装騎士団の男が、分厚い鎧が擦れる金属音をさせながらこちらに向かって歩いてくる。先ほどは兜を付けており、目の部分しか見えなかったが、今は兜を脱いでいるので顔を見ることができた。男の年のころは四十歳代ぐらいで、背は高く、少々長めの黒髪を後ろでまとめている。大きく見開いた目が印象的だ。

「君たちの落とし物だよ」。

 その男はしっかりとした口調で言い、両手に持っていた剣を二本差しだした。翼竜に突き刺したままだった私の剣と、空中で弾き飛ばされたソフィアの剣だ。

 私とソフィアはそれぞれ剣を受け取って、鞘に納めた。

「ありがとうございます」。

 私は言って軽く会釈した。

「ところで、君らは何者だ?帝国軍とは違うな。城内は関係者以外立ち入り禁止だぞ」。

 男は質問した。

「我々は、ズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊の者です。翼竜で城内が混乱していたようで、入口の衛兵が不在で勝手に入ってきました。申し訳ありません」。

 私は形式的に謝罪して続けた。

「ここへは陛下への謁見できました」。

 私は懐から命令書を取り出し、男に手渡した。男はそれを読んでから言った。

「なるほど、傭兵部隊の隊長か。わざわざズーデハーフェンシュタットから来たんだな」。男は命令書を私に返して続けた。「私はセルゲイ・キーシン。首都の重装騎士団で、第三旅団の旅団長だ」。

 旅団長にしては少し若いな、と私は思った。

「私は、ユルゲン・クリーガー。二人は私の弟子でオットー・クラクスとソフィア・タウゼントシュタインです」。

「今のは、素晴らしい戦いだった。翼竜との戦いの経験があったのか?」

「いえ、今回が初めてです。そもそも実戦経験もあまりありません」。

「それは本当か?いままで翼竜が何度も来たが、我々は、追い返すのが精いっぱいで、倒したことはなかったぞ。しかも毎回犠牲者は百人を超えていたが、今回は二十人程度で済んだ」。キーシンは驚いた表情をした。「ズーデハーフェンシュタットの傭兵部隊は優秀なんだな。ここには傭兵部隊はいないが、もし、傭兵を募集するとこになったら、君にそちらの指揮をお願いしたいものだ」。と、言ってニヤリと笑った。「そして、君の弟子、ソフィア君と言ったかな?空を飛ぶ魔術とは、初めて見たよ」。

「彼女は傭兵部隊では、“雪白の司書”とルームメイトで、珍しい魔術を教えてもらっているのです」。

「“雪白の司書”か?そういえば、首都にも数名ヴィット王国の出身の者がいると言う話を聞いたことがある。確か貿易か何か関係の仕事をしていると思う。まあ、彼らは魔術師ではないから“雪白の司書”ではないがな」。

「そうなのですか?」。

 ヴィット王国出身者が首都にも居るのか、意外に国外に滞在者がいるものだな。国が方針を変えたのだろうか。

「君らの訪問に対応する担当者がいると思うので、探しておこう。長旅と、さっきの戦闘で疲れているだろう。待つ間は城内に軍専用の休憩室があるから、一旦そこで待機してくれ」。

 キーシンはそう言って、我々を先導する。

「よろしくお願いします。あと、馬を入り口付近につなげてあるのですが、見つけておいてくださいますか」。

 うっかり馬のことを忘れるところだった。

「馬か。おそらく見ればわかるだろう。こちらで見つけて、城内の馬屋につなげておくよ」。

「ありがとうございます」。

 私は礼を言うと、我々はキーシンの後に続いて城内を移動する。


 城内をしばらく歩いて軍専用の休憩室に案内された。

「では、好きなところで待っていてくれ」。

 キーシンはそう言うと、どこかへ去っていた。

 三人は休憩室の中に入った。中はとても広く、多くの兵士でにぎわっていた。水が自由に飲めるようなので、我々はおいてあるコップにそれぞれ水を注ぎ、空いている座席を見つけ席に着いた。

「のどが渇いていたので、生き返るな」。

 私は深く深呼吸しながら言った。オットーとソフィアも水を飲み干す。

 私は今回の戦いを思い出しながら言った。

「翼竜はかなりの強敵だったが、今後、また戦う機会があると思う。ズーデハーフェンシュタットに戻った後、編成される調査隊で島へ行くときに役立つだろう」。

「翼竜に遭遇したら、次も同じ方法で倒しましょう」。オットーが言った。

「多分使えますね」。ソフィアも同意した。

「皇帝の謁見は、翼竜の調査団について以外にも何か話があるんですよね」。と、ソフィアが急に話題を変えた。

「そうだ。何かはわからないが、調査団の仕事だけでも大変なのに、何を命令されるのやら」。

 それを聞いて、オットーが笑って言った。

「珍しく弱気ですね」。

「まあ、お楽しみにしておこうか」。

 あまり不安そうにしているのも良くないと考え、私はいたずらっぽく笑って見せた。


 我々三人が談笑していると、ほかの兵士の何人かが話しかけてきた。

「先ほどの翼竜との戦いを見ました。すごかったです」。

「どこの所属ですか?」

「珍しい魔術を使いますね」。

「帝国軍の正規の部隊ではないですよね?」

 いろんな質問が飛んできたが、私たちは丁寧に答えてあげた。

 外部の者は珍しいのであろう、どんどんほかの兵士も集まってきて人だかりになってしまった。全員から握手を求められ大変ことになった。


 しばらくすると、一人の女性が近づいて来た。

「ちょっとどいて」。

 彼女は、強い口調で人だかりをかき分ける。

 ようやく私たち三人の脇まで来たその女性は敬礼した後、自己紹介を始めた。

「私は皇帝親衛隊の隊長で、ヴァシリーサ・アクーニナと言います。ユルゲン・クリーガー隊長一行の首都訪問を歓迎します。あなた方を賓客としてもてなすように命令されております」。

 アクーニナは、すらりと背が高く、長い金髪をまとめている。親衛隊の制服だろうか赤をベースとし、肩や胸などにフリンジが付いたやや派手なものだ。実戦向けというより式典用の制服のように見える。彼女の年齢は、見たところ二十歳代半ばと言ったところか。それにしても、皇帝親衛隊なんてものがあるとは初めて聞いた。

 我々も立ち上がり敬礼した。

「初めまして、私がズーデハーフェンシュタット駐留軍所属、傭兵部隊隊長ユルゲン・クリーガーです。こちらの二人は、隊員で私の弟子でもある、オットー・クラクスとソフィア・タウゼントシュタインです。よろしくお願いします」。

「滞在中の宿泊部屋を用意しております。案内しますので付いて来て下さい」。

 アクーニナはそう言うと歩き出した、我々はアクーニナの後に続き、兵士をかき分け休憩室を出た。

 城内をだいぶ歩いただろうか、衛兵が立つ廊下を抜ける、しばらくすると赤い絨毯が引かれた廊下へと到達した。そしてすぐにアクーニナは立ち止った。

「この部屋からそこまでの三つがあなた方が滞在する部屋です。中は自由にお使いください。朝は、召使いが食事をお持ちします。そのほか何か要望があれば、その時に召使いにお伝えください。城外への外出も可能ですが、城内は今通った廊下以外は通行禁止ですのでご注意ください。また城内と首都内での通行書をお渡しします、街で兵士に呼び止められてもこれを見せれば大丈夫です」。

 アクーニナは注意事項を一気にまくし立てるように伝え、通行書を手渡した。私の方からは、ズーデハーフェンシュタットでルツコイからもらった命令書をアクーニナに手渡した。

 アクーニナはその命令書を受け取り、一瞥してから続けた。

「皇帝は予定が立て込んでおり、あなたの皇帝との謁見は明後日の午後三時となります。その三十分前にこの部屋まで私が迎えに上がります、待っていてください。それまでは、ご自由に」。

「今日の夕食はお願いできますか?三人分」

 私は尋ねた。今日は朝から食事を取れていないので空腹だ。

「わかりました、すぐに召使いに持ってこさせましょう。では」。

 そう言うと、アクーニナは去っていった。

 アクーニナが去ったのを確認してから、私はオットーとソフィアに言った。

「皇帝の謁見は私だけなので、君らは明々後日の朝の出発まで自由時間だ。では、休んでくれ」。

 我々三人は、それぞれ部屋に入っていった。

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