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マギア・ミステリー 魔法少女たちが綴る本格ミステリーデスゲーム  作者: イノリ
Chapter2:魂の存在確率 【解決編】
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【解決編】This murder is my justice.

《この殺人は私の正義。》




「……えっ?」


 ワンダーは、今、何を言った?


「不正……解?」

「にゃっ!? 間違えたのかにゃ!? でもこいつは、確かに男だったにゃ!」

「はぁ!? 彼方あんた、間違えたの!?」


 非難の声が上がる。

 私は……間違えた?


「にゃ――どういうことにゃ!? おみゃーが【犯人】じゃなかったのかにゃ!?」


 摩由美ちゃんが[呪怨之縛]を解き、忍ちゃんを――いや、忍くんを問い詰める。


「ち、ちが、ボクは……」

「……嘘はよくないよ、シノっちも、ワンワンも( ̄д ̄)」


 自己弁護を叫ぼうとした忍くんを押しのけて、空澄ちゃんが言う。


『嘘? 嘘なんて心外だなぁ! ゲームマスターがこんな大事な場面で嘘をつくわけないじゃないか!』

「紛らわしい言い方をするのも、十分に嘘の範疇だと思わない?(。´・ω・)?」

「えっ……? 紛らわしい、言い方……?」


 空澄ちゃんの言葉に、希望を見出す。

 空澄ちゃんは、私の肩に手を置いて、笑った。


「大丈夫だよ、カナタン。議論の時間がなかったから、あーしも伝えられなかったけど――あーしらに何も問題はない。そうだよね、ワンワン?(〟-_・)?」


 空澄ちゃんが、まっすぐにワンダーを見据える。

 ワンダーは――はぁ、とため息を吐いた。


『あーもう、なんでバラしちゃうかな! 頭ピンクちゃんの間抜け面をもっと拝みたかったのに、台無しじゃないか!』

「え……? 空澄ちゃん、どういうこと?」

「どうもこうもないよ。三分の一不正解。カナタンが間違えたのは、誰がやったか(フーダニット)でもどうやったか(ハウダニット)でもない。――どうしてやったか(ホワイダニット)。そういうことでしょ?(´Д`)」

『ぎゃー、もう清々しいほどの大正解だよ! こんちきしょー!』


 私は、困惑していた。

 確かに、ワンダーが【真相】の中で答えるように言っていたのは、フーダニットとハウダニットだけ。ホワイダニットに関しては問われていない。

 だけど――間違えたなんて思っていなかった。

 フーダニットとハウダニットが合っていて、それでどうしてホワイダニットだけ正解にならない?


「ボ、ボクは! 人殺しなんてしない!」


 突然、忍くんが叫んだ。怒りを露わにするように目を見張って立っている。

 今まで、自分が【犯人】であると指摘されてもなお、ずっと口を閉ざしていた忍くんが。


「空鞠さん、そいつから離れて!」

「えっ?」


 そいつ、と言って忍くんが指差したのは、空澄ちゃんだった。

 確かに、空澄ちゃんは色々と危ないところがあるけれど――どうして?


「あー、やっぱりそう来るか( ̄д ̄)」

「うるさい! ボクらの中に紛れ込んで、何を企んでいた! ――魔王!」


 激昂した忍くんが、その呼称を口にする。

 ――魔王。私たち魔法少女の最大の敵。

 その呼称を、空澄ちゃんに対して用いている。

 全く理解が追い付かずに、私は硬直した。


「魔王……?」

「違うって。あーしが魔王なわけないでしょ?(´Д`)」

「違う! 棺無月さんは、魔王だ!」


 忍ちゃんが、血走った目で言う。


「棺無月さんは何回も、女子トイレに入ってた! あの触手の化け物がいる女子トイレに! しかも、無事な姿で出てきたのを二回も見られてる! ボクみたいに男じゃないのなら、魔物に命令できる魔王じゃなきゃ、あそこには入れないはずだ!」

「あ――」


 そうだ。忘れていた。追求し損ねていた。

 空澄ちゃんが、女子トイレから出てきた理由を。


「しかも棺無月さんは、それを目撃した萌さんも殺そうとした! それは知られたくないことだったってことだ! だから――誰かが殺される前に、ボクは魔王を殺そうとしたんだ! そうすれば、この殺し合いは終わるはずだから! なのに、その前に、猪鹿倉さんが……猪鹿倉さんが……っ」


 ――女子トイレに仕掛けられた罠は、本当は、女子トイレに出入りする空澄ちゃんを狙ったものだった。女子トイレに自由に出入りするには、男でないのなら、魔物を操る力を持っている存在でなければならない。それに該当する存在は、魔王しかいない。

 忍くんはそれに気づいたから、空澄ちゃんを殺そうとした。

 それが――【犯人】がこの殺人トラップを仕掛けた理由?


 狼花さんは、偶然に、その罠の範囲に踏み入ってしまっただけ?

 狼花さんを、旧個室を狙った殺人じゃなかった?


「……だよねー。そういうことだよねー(~_~)」


 空澄ちゃんが、諦めたように言う。


「空澄ちゃん……本当に?」

「やだな。勘違いしないでよ。あーしは魔王なんかじゃないよ(´Д`)」

「嘘だ!」


 空澄ちゃんの言葉を、忍くんが頑なに否定する。


「それならどうやって、触手の魔物に襲われずにトイレに入れたの!? そんな方法、あるはずな――」

「[確率操作]だけど?(。´・ω・)?」

「……えっ?」


 忍くんが、呆然とする。


「[確率操作]。キミの恋人だかの固有魔法。それで女子トイレに入っただけだよ(;'∀')」

「え……そ、そんなはず……。だって、接理ちゃんが、君に魔法をコピーさせるなんて、そんな……」


 忍くんがたじろぐ。そんなことはあり得ないと、怯えながら首を振る。

 ……私は、薄々その可能性に気が付いていた。


「ワンダーを捕まえるとき、だよね……」

「そ。セツリンに手伝ってもらったよね。あのとき、ついでに魔法をコピーさせてもらったよ。みんな簡単にミスディレクションに引っかかるんだから。[爆炎花火]をコピーしたなんて言ったら、その直前の入れ替えに目が行かない。ま、騙す方は楽でいいけどね( ̄д ̄)」

「そのときに[確率操作]をコピーして、それで、女子トイレに入ってたの?」

「うん。一分間、あらゆる攻撃を偶然回避できる――みたいな感じのこと言って、女子トイレを調べてたんだよ。もしかしたら、ワンワンがそこに何か隠したりしてるんじゃないかと思って。ま、何も見つからなかったけどね(-ω-)/」

「……ぇ。そ、そんな……」

「確か、シノっちに見られたのは昨日の夜だっけ。おかしいと思わなかった? 魔王なら、息切らして急いでトイレから出てくる必要なんてないでしょ。攻撃されないんだから、ゆっくり歩いて出てくればいい。(´Д`) むしろあーしは、息切らしてたせいで、わざわざキモイ触手のところに遊びに行った変態扱いされちゃったかな、って悩んでたんだけど。シノっちはもっととんでもない勘違いしてたわけだね(+o+)」


 滔々と事実を説明する空澄ちゃんに、忍くんが呆然とする。

 それが、本当なら――。

 今回の殺人は、本当に、何の意味もないものだった。

 そういうことになる。


 魔王を殺そうとしたのは、自己防衛のつもりか――。

 それとも、彼なりの正義感に基づいた行動だったのだろうか。

 どちらにせよ、魔王を対象とした殺人トラップは、そもそも相手を間違えていた。

 魔王はそこには現れず、代わりに、善良な魔法少女が誤って罠にかかった。


 ――ただの、勘違いによる事故。

 それが――この事件の【真相】。


『あははははは! 魔王様はここにいるっていうのに、馬鹿だよね! ま、忍者ちゃんはアバンギャルドちゃんに殺されるー、とか思ってたみたいだし? 被害妄想ってやつだよね! あるある。人間って極限状態に追い込まれると、ただの思い込みを真実だと錯覚しちゃったりするからね! 仕方ないんじゃないかな? ――そのせいで、不良ちゃんが死んじゃっただけだよ! あはははははははは!』

「ぁ、ぁ……」


 忍くんが崩れ落ちる。


『というわけで、改めまして答え合わせを!』

『頼れる姉御系不良少女、爆発を操る危険人物! 不良ちゃんこと、猪鹿倉 狼花さんを殺してしまった【犯人】はー?』

『――みなみなさま、大正解! 美少女の群れの中に潜む黒一点、忍者ちゃんこと神子田 忍ちゃんこそが【犯人】だったのでしたー!』

『ま、大正解っていっても、ホワイダニットは外しちゃったわけだけど? それに関しては問わないってボクが明言しちゃったわけだし? 仕方ないから、見逃してあげるよ。命拾いしたな!』

『ああ、でもキミらが命拾いしたせいで、死ぬことになっちゃった子もいるけどね! あははははははははは! あはははははははは!』 


 ワンダーが、死刑が確定した【犯人】を嘲笑う。


『それにしても、気づくのが遅いよー。ボクは最初から言ってたのにさー。忍者(・・)ちゃん、ってさ! 女だったら、くノ一って呼ぶに決まってるでしょ!?』

『それに、忍者ちゃんもさ! せっかくのハーレムなのに、一緒にお風呂に入ろうともしない! 誰か襲ったりしちゃうこともない! ダメだよそんなんじゃ! もっと肌色成分増やしていこうよ! 男ならガツガツ行けよ!』

『まあでも? おかげで、忍者ちゃんの性別は殺人のトリックに利用されることになったわけだし? 結果オーライということにしてあげましょう! アバンギャルドちゃんをあそこまで追い詰めるなんて、なかなか面白い謎になったんじゃないかな?』

『あははははははははは!』


 笑う、笑う。魔王が笑う。


『さて。もうわかってるよね?』

『ルールに則り――これより、神子田 忍ちゃんに、世界で最も芳醇なる死を与えます! みなみなさま、拍手でお迎えください!』

『あはははははははははは!』

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