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マギア・ミステリー 魔法少女たちが綴る本格ミステリーデスゲーム  作者: イノリ
Chapter1:彼方の背中に何を見る 【問題編】
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What did you see?

《あなたは何を見た?》




「それで透意、結局あの時……ゴンドラの扉が閉まるとき、何を伝えようとしていたの?」


 魔法少女となった後、流石にこれ以上時間を無駄にしている余裕もなく、私は単刀直入に切り出した。


「ああ、あれですか。あれはガラスの様子が変だったので、何か仕掛けられてると思ったから……」

「つまり、あの曇った状態は正常じゃないってことね?」

「はい。普段なら、全部透明なガラスです」


 予想通りの答えではある。しかし物足りなくもあった。


「それ以外は? 事件が起きたのはあなたのゴンドラでしょう。なら、それ以外に何か不審なところはなかったの?」

「……ゴンドラへの仕掛けは、何も」

「今、言葉に詰まったわね。それ以外に何かあったってこと?」

「……はい。あの、子犬さんが」

「玉手さんが何か不審な動きをしていた?」

「いえ、あの、逆で……私が不審な動きを見咎められたというか」


 透意は言葉にしづらい様子で、困った表情を隠そうともしなかった。


「どういうこと? あなた、何かしたの?」

「あなたが見た通りですよ。乗っちゃダメって叫んだ時、扉が閉まって遮られちゃいましたけど、玉手さんには聞こえていたので。それはおかしいって詰め寄られました」

「ああ、まあ、そうね」


 即座に事態を察して警告を発せるほどの違和感を覚えたというなら、それは逆に、別の状態を知っていたということになる。

 夜の時間以外、私たちは全員で固まって行動している。だからゴンドラの様子を知っていたというのなら、それは夜に勝手に出歩いていたということで。

 リーダーのような役を務めていた玉手さんとしては、その理由を聞かずにはいられなかったのだろう。


「それで結局、どう答えたの?」

「……一応、観覧車のガラスがこんな風になってるのはおかしいと思ったから、って言いましたけど。たぶん、疑われたと思います」

「まあそうね。それだけなら、先に乗った五人が同じことをしていてもおかしくないもの」


 本来なら、今頃厄介な問題になっていただろう。最悪、透意の正体がバレかねなかった。

 けれどそうはならなかった。透意のミスを知っている玉手さんは、もうこの世にはいないのだから。

 厄介な問題は別の形で、私たちを襲っている。


「でもそれが、玉手さんが殺された理由に繋がるとは思えないけれど。あなたが口封じしたというわけでもないだろうし」

「…………」

「他にはないの? この場所には、あなたが一番詳しいでしょう」

「他には……いえ、何も。すみません」


 透意が項垂れる。本当に、もう何も出てこないようだ。

 透意は無力感を覚えているみたいだけれど、むしろ逆だろう。被害者の間近にいようと、全く情報が出てこないような殺人を起こした【犯人】が凄まじいと言った方が適切だ。


「とりあえず、情報を整理しましょう。ガラスには何か細工がしてあった。そしてゴンドラが降り場に着く直前、あなたの目の前で突然玉手さんは死んだ。間違いない?」

「……いえ、目の前じゃないです。私が見てた時は、子犬さんの服は魔法少女のものでした。だからたぶん、私がゴンドラから降りるタイミングか、降りた後だと思います」

「……なるほどね」


 つまり死亡時、ゴンドラの扉は開いていた。干渉する隙間は僅かとはいえ確かにあったというわけだ。

 今まで私の思い浮かべていた容疑者候補は一人だけだったけれど、こうなるともう一人容疑者として追加されるかもしれない。


「念のために聞いておくけれど、あなたがゴンドラから降りた後、誰かがすれ違いにゴンドラに押し入ったりしてないわよね?」

「な、ないですよそんなこと。いくらなんでも、そんなことがあったら私だって見逃しません」

「まあそうよね、常識的に考えて」


 そんなことを【犯人】がやったのなら、【犯人】は透意の真横を通ってゴンドラに押し入り、降りようとする玉手さんを殺したということになる。

 どこからツッコミを入れればいいのかわからないくらい、間抜けなシナリオだ。

 ……ある一人を除いて。


「最後に一つ聞かせて。あなたが異変をみんなに伝えた後、霧島さんがなんて言ったか、覚えてる?」

「え? もしかして――」

「いいから、聞かせて」

「えっと、確か……。事件かもって」


 私もあの時のことを、[幻想書架]で確認する。

 あのとき、霧島さんはこう言っていた。――「まさか、事件?」と。

 まあ一言一句正しく覚えるような台詞でもないし、十分に覚えていると言ってもいい範疇だろう。


 なら、現時点で【犯人】として最有力な候補も自然と浮かび上がってくる。

 ただ、彼女(・・)が【犯人】だとしても、おかしい部分が残っている。それを解き明かさない限り、私たちは殺される。


「そろそろ話は十分でしょうね。現場に戻って、私たちも捜査しましょう」

「……何か、わかりましたか?」

「わかったこともある。けれどその分、疑問の方が増えたわ」


 透意が言う通りの犯行を成し遂げられそうな人は、私の思いつく限りでは二人。

 ただしそのどちらも、矛盾点を抱えている。

 そのどちらかが偽装のはずだ。私はそれを暴かなければならない。


 ……それと、透意の無罪証明も同時に行わないとね。

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