ネタIF プリン盗難事件【解決編】
(4/1 更新分②)
◇◆◇【釜瀬 米子】◇◆◇
ウチの発言に、場は騒然とした。
当然だ。情報が足りないとみんな言っていたのに、一足飛びに犯人がわかったなどと言われたのだから。
だけど、確信に近いものがある。
ウチはみんなを見回してから、緊張しつつ口を開いた。
「あの、ウチ、思ったんですけど。プリンを持っていっても、そのままじゃ食べられないですよね?」
「えっと? ごめんなさい、あまり理解が……。どういうことですか?」
「え、あ、だからその……。どれだけ急いでも、食べるには数十秒かかりますし、そうしたら誰かに見られちゃいますよね?」
「そ、そうだ! 確かにそうだよ! 誰も食ってるとこ見てねぇのは変だろ!」
「……ああ、そういうことね(;'∀')」
筆頭容疑者の一人にされていた猪鹿倉さんが声を上げる。
棺無月さんは、既に全てを察してしまったように呟いた。
他のみんなは、その不可解を解消する続きを、と視線で促してくる。
「誰も机の下に引っ込んでないのは確認しましたから、犯人は気づかれないように食べる――いえ、そもそも、誰にも気づかれなくなる手段を持ってたんだと思います」
「あっ。まさか、魔法ですか?」
「はい」
自己紹介の際、みんなで固有魔法を明かし合った。そのとき聞いた中で、誰にも気づかれないように行動できるようになる魔法は二つ。
「神園さんの[確率操作]か凛奈さんの[存在分離]があれば可能だと思います」
「ふむ。セツリンなら『一分間誰にも気づかれなくなる』とか言えばいいし、双子の妹ちゃんなら自分の存在感を分離させちゃえばいい。そういうことかな?(*'▽')」
「はい。だけど……」
棺無月さんによって、そのうちの一人は選択肢から除かれる。
「棺無月さん、言ってましたよね? すごい記憶力があるって。神園さんが魔法で存在感を消しても、その効果が消えているはずの今なら、記憶を辿って確認できるはずです」
「さっきも言ったけど、セツリンはずっと座ってたよ。ずっとね(´Д`)」
「なら……決まりです。神園さんは棺無月さんとは対岸の席。ほぼずっと視界内にいるはずの席です。対して――凛奈さんの座席は、棺無月さんの視界外だった可能性が高いです」
「うっ……」
ここで、佳奈さんは呻き声をあげる。
やっぱり……。
「ただ、これだと問題があって。凛奈さん一人じゃあ、切り離した後の存在感を戻せません。だからこの場合は……佳奈さんも共犯なんだと思います」
「ま、待って! 佳奈は……」
みんなの視線に晒されないように凛奈さんを庇いながら、佳奈さんは言い訳を試みる。
でも、この二人が犯人という以外のケースはあり得ない。そもそもプリンを取りに行けないか、食べるところを見られてしまうか、後からバレてしまうかの三択だ。
「そこまでですよぉ! ――どうやら、答えは出たようですねぇ。それでは……」
「な、なによ! 罰として佳奈たちを痛めつけようって言うわけ!?」
「くははっ。懇親会に、そのような猟奇イベントはぁ、ナンセンス、というやつでしょうねぇ。先ほども言った通りぃ、わびしいご飯を食べてもらうだけですよぉ」
「うう……」
「それと、悪いことをしたら?」
「……ごめんなさい」「……なさい」
「よろしい。――では、夕飯にするとしましょうかぁ」
◇◆◇
「釜瀬さん、助かりました」
「ありがとな、米子。おかげさんで助かったわ」
「え、あ、あの……。お、お役に立てたなら、嬉しいです」
「ええ。このご恩は、いつかお返ししますね」
「そ、そんな! いいですよ!」
「あ、もちろんオレもなんかさせてもらうぞ。恩知らずにはなりたくねぇからな」
口々に褒められると、なんだか照れくさい。
でも、こんなウチでもお役に立てたなら光栄だ。
……なんて幸せそうなテーブルの片側とは対照的に、暗く沈んだメンバーが二人。
「うぅ……」「おねぇちゃん……」
佳奈さんと凛奈さん、二人に振る舞われたカレーは、ルー極少野菜マシマシという小学生には辛いメニューだった。
それを見て、私も心が痛んだ。
ご飯は、楽しく食べられなければ意味がない。量が多くても味が良くても、楽しいことが大前提だ。
だから……。
「あの、佳奈さん、凛奈さん」
「何? 人のプリンに手ぇ出したバカを嗤おうっていうわけ?」
「そ、そうじゃなくて……」
私は、スッと……いや、だいぶ長い葛藤を挟んでから、まだ手を付けていないカレーの皿を二人の方に滑らせた。
「これ、食べてください」
「え? でも、それじゃあんたのは……」
「ご飯はみんなで楽しく、ですよ。じゃなきゃ意味ないです」
「そう。……あ、ありがとうって言っておいてあげる!」
佳奈さんは頬を赤く染めながら――たぶん照れ隠しを交えつつお礼を言ってくれた。それで十分だ。
「ああ、それと――」
「それと?」
ウチの元にお皿が返ってきてから、残りを早急に掻っ込むと、私は立ち上がりながら叫んだ。
「ウチはおかわりすればいいので!」
「……ぷっ。あはははっ」
急に笑い声が上がった。
見ると、古枝さんが笑っていた。今まで、こんな風に声を上げて笑ったことなんてなかったのに。
「締まらないですよ、釜瀬さん」
「えへへ……」
ちょっと照れくさい。
でも……。うん。なんか、いい気分だ。
◇◆◇
――ドンドンドン。
「おーい、米子、起きろー!」
「ん……あれ?」
気が付くと、ベッドの上だった。
もしかして今のは……夢?
そうだ。ウチらは今、変なぬいぐるみの魔王に監禁されて……。
ドアを叩いているのは、猪鹿倉さん?
その後ウチは、猪鹿倉さんに言われて一階の厨房に向かった。しかし厨房に行くと古枝さんに伝達ミスと言われ、食堂へ。
何が始まるのかと思っていると、次第に全員集まって来た。
そして――。
「その暗号ってさ、お米ちゃんに食べさせちゃえば一発だよね?(。´・ω・)?」
閉じ込められた館の中で、暗号が見つかったというニュースを聞かされる。
「ええ。わたくしたちも、米子さんにお願いしようと思っていました。――米子さん、お願いできますか?」
「えっ、え。う、ウチがお役に立てるんですかっ?」
「ええ。米子さんだけにしか、これはお願いできません。……引き受けていただけますか?」
古枝さんに伏し目がちに問われる。
ウチの魔法、[暗号捕食]。何の役にも立たないと思っていたけど――。
こんな、絶好の機会が巡ってくるなら!
「よ、喜んで!」
ウチは椅子から立ち上がった。
ウチも、みんなの役に立つんだ!
役に立って……さっき見た夢みたいに、みんなで仲良くなりたい。
ここから出た後、おかしな体験だったと笑い話にできるように。
そんなことを思いながら、ウチは棺無月さんや萌さんと一緒に、暗号解読のために厨房へと向かった。
そして……。




