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15 頼まれごと

「え~っと、何でしょうか? 私はあなたと敵対する気はありませんし、ここに勝手に入ってきたことはお詫びしますので何とか穏便に済ませていただければ……」


 こんな大きな生き物と戦えば普通に考えれば勝負にならない。


 しかもその相手が伝説の神獣ともなれば俺に万に一つの勝ち目もないだろう。


『何を勘違いしているのか知らないが咎めようというのではない。むしろ逆だ』


「逆?」


『そうだ、わたしを助けて欲しい』


 首を捻った俺に対して目の前の存在にそう頼まれた。






「なるほど、封印結界ですか。それもかなり強力なものですね」


 リヴァイアサンの身体の大きさや存在感に気をとられて気付かなかったが、彼(彼女?)はこの場所に封印されているとのことだった。


 よくよく見れば石畳には魔法陣が描かれている。


 かなり複雑な魔法陣だがリヴァイアサンの身体を拘束するとともに魔力を少しずつ吸収するというかなり厄介な術式のようだ。


「あなたのような存在が一体どうして?」


『わたしが長い眠りに入っている間に不覚をとってしまった。このダンジョンの主になるのだろう、そやつにやられてしまったのだ』


 このダンジョンの主は大きな亀の魔物というか魔獣らしい。


 普通に戦えば遅れをとることはないらしいがタイミング悪く文字通り寝首をかかれたとかなんだとか。


「しかし、そんな強力な結界、私の力では……」


『いや、この結界は外から強い魔力を加えれば破壊することができる。わたしの見立てでは大丈夫だろう』


「はあ、では取り敢えずやってみましょう。できなくても怒らないで下さいね」


 俺は目の前に広がる床に描かれた魔法陣にそっと手をついた。


 そして、少しずつ魔力を流し始める。


 今日は魔力をまったく使っていないので今の俺は魔力が満タンだ。


 遭難中なので魔力を使い過ぎるのもこれからのことを考えれば怖かったが、そんな考えが頭をよぎったくらいのところでどこからともなくピシっという何かがひび割れる音がした。


『おお、もう少しだ』


 体感的に魔力を1割も使っていないくらいなのでもう少し使っても大丈夫だろう。


 俺はさらに魔法陣に流す魔力の量を増やした。


 すると――


 ピシっ、パキパキパキっ!


 さらに大きくひび割れる音がする。


 その音を聞き、最後のひと押しとばかりに俺はぐっと魔力を込めた。


 そして――


 パキパキっ……パリンっ!


 あたかもガラスにヒビが入って粉々に砕け散ったかのような甲高い音がこの空間に響いた。



「!?」



 その瞬間、ぶわっという衝撃波のようなものを感じ俺は床に手を付いたまま身動きすることができなかった。


 恐らく目の前の神獣から放たれたのだろう。


 今もとてつもなく大きな力の波動を感じて俺は息苦しさから床に手をついたまま身体を起こすことができない。


『おっと、すまない。これなら大丈夫だろう』


 その声とともに俺の身体がふっと軽くなる。


 それまで身体全体にのしかかっていた圧が霧散したのを感じると、俺は力が抜けてしまってその場に座り込んでしまった。





『改めて御礼を申し上げよう。ありがとう』


「いえ、大したことではなかったので」


『そうは言っても人間にとってはかなりの魔力の量を使ったはずだが……。いや、それはともかく礼の一つもしなければなるまい。何かして欲しいことはあるか?』


「そうですね。実は今、遭難しているので帰りの道でも教えていただければと思うのですがさすがにそれは無理ですよね?」


『そうだな、わたしもこのダンジョンの構造まではわからない。しかし、このダンジョンの外に出たいというのであれば出してやることはできるぞ』


「えっ?」


 目の前の神獣は事もなげにそう言った。


『その程度では礼にはならんだろう。それで礼は済んだなどとは言うつもりはないから遠慮はするな』


「わかりました、ではお言葉に甘えて。他には今のところお願いすることは特にはありませんので」


 急に言われても小村民の俺は困ってしまう。


『そうか、欲がないのだな。なるほど、それでそこのはあなたに付き従っているのだな』


 神獣は俺の傍で黙って座っているシロを見てそう言った。


 シロのことを何か知っている感じではあるものの当のシロは特に何も反応を示さない。


『何か頼み事があればわたしはこの湖にいるのでいつでも呼んでくれ』


 俺が考え事に耽っていると神獣はそう言って光を放ち始めた。


 一瞬光で目が眩んだのでその光を遮ろうと腕で目を覆う。



「あれっ、ここは?」



 そして、光が収まり次に目を開いたときには、不思議なことに俺はダンジョンの入口の前にいた。


 訳が分からず俺がダンジョンの入口できょろきょろとしていると監視小屋に詰めていた人たちにガオンとヘンリーが必死に何かを訴えかけている姿が目に入った。


「……兄貴?」


 そんなガオンが俺の存在に気付いて茫然とした表情で俺を呼んだ。


「ああ、ただいま」


「兄貴~~~~~!!!」


 ガオンの叫び声とともに俺はこうして無事に帰還することができた。

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