12 一寸先は闇
「いよいよだなっ!」
「ああ、楽しみでもあり緊張もするな」
「キャンキャン」
今日は俺たちのパーティーがダンジョンに潜ることができる割当日だ。
朝からダンジョン行きの馬車に乗って目的の場所へと向かう。
今日の御者はいつもの村長さんではない。
最近は馬車の便が多くなり過ぎたのでダンジョン便は他の人が担当することになったという話だ。
「坊主たち、あんまり無茶をするんじゃないぞ」
「そうそう、俺たちの助けは期待するなよ」
今日は一組、他の街からダンジョンツアーで来た冒険者さんのグループと一緒だ。
Cランクの冒険者グループだそうで、以前にダンジョンに参加した冒険者たちに触発されて参加することにしたそうだ。
「へへっ、俺たちには兄貴がいるからな」
元々ガオンは俺びいきだが、茨の王の一件もあってか俺への謎の信頼が半端ない。
(シロっ、頼んだぞっ!)
「くぅ~ん」
俺はうちのパーティーの主力になるはずのシロの頭を撫でてその活躍を期待することにした。
「装備よし、ポーションよし、食料に水もよし」
馬車がダンジョン最寄りの宿泊施設に着くと俺たちは勇んで馬車を降り、持ち物の最終確認をした。
この宿泊施設は今や単に宿泊できる場所というだけではなく、ちょっとした物であれば買えたりする。
「お前たち、怪我には注意しろよ」
ダンジョンの監視小屋にもなっている宿泊施設に詰めているおっさんたちの声に送り出されて俺たちはダンジョンへと向かった。
一緒に来た冒険者グループは頼るなと言いながらも俺たちを置いて先にいくようなことはせずに取り敢えず一緒に進むようだ。
「これがダンジョンか~」
ガオンが感慨深げにそう言った。
ヘンリーは緊張しているのか表情は固く、黙り込んだままだ。
俺はこの前、救援で来ているのでそうでもないが、一緒に来た冒険者さんたちもそれなりに慎重にダンジョンを進んでいる。
冒険者さんたちとは20メートルくらい距離をとってダンジョンを進んでいくと進む先に魔獣の群れが見えた。
「うおっ、ブルーボアだっ!」
冒険者さんがそう言って色めきだった。
一方の俺たちにとっては村の外での狩りで見慣れた魔獣だ。
「ただのボアじゃないのか?」
「微妙に違うのかもしれない。注意しよう」
ガオンとヘンリーが小さな声で囁き合う。
こうして俺たちはダンジョンでの最初の戦闘に突入したのだが……。
「やっぱりただのボアだったな」
「いつもの奴だったな」
俺たち、というよりも力の入ったガオンとヘンリーが慎重かつ大胆に魔獣に向かい、いつもの狩りのように多少は苦労しつつも倒すことができた。
ブルーボアはCランクの魔獣だがうちの村では最低ランクの扱いだ。
一方で……
「くそっ、いきなりこんな魔獣が出てくるとはっ!」
「さすがは高難度ダンジョンだ」
冒険者さんたちはそう言って苦労しながら魔獣を倒していた。
「坊主たち、なかなかやるな……」
それから何度か魔物や魔獣に遭遇したが最初の戦闘と同じような感じだった。
俺たちの戦闘を目にした冒険者さんたちが驚く様にそう漏らしたがガオンたちはお世辞だろうと思ったのか気にも留めずに進んでいく。
途中で宝箱を見つけて回収もした。
中には鉄ではなさそうな素材でできた薄刃のナイフが入っていた。
ダンジョン内で見つけたアイテムは取り敢えず俺が預かることになっている。密かにマジックバッグを持ってきているので戻ってからどう分けるかを話し合う予定だ。
2階層に降りたところで俺たちは一旦、休憩をとることにした。
そろそろお昼時なのだろう小腹が空いてきてちょうどいいという判断だ。冒険者さんたちは休憩せずに進むようでここで彼らとは別れた。
「行き止まりの通路がありますのでここで休みましょう」
ヘンリーの提案でここで携帯食を食べて軽く腹を満たすことにした。
あまり食べ過ぎると動きが鈍くなるので狩りや冒険中はそんなものらしい。
「それにしても思ったほどじゃなかったな」
「ああ、俺たちでも何とかなるし鍛錬にはちょうどいい。アイテムも手に入るしな」
ガオンとヘンリーが初ダンジョンの感想を言い合っている。
俺はと言えば今のところ戦闘に参加していないしこのまま無難に済めばいいな~と思いながらシロに餌をあげた。
何か珍しい素材でもないだろうかと考えながらダンジョンの行き止まりになっている壁に背中を預けるように座ろうとしたのだがそれがいけなかった。
「!?」
ダンジョンの壁が俺の背中を支えてくれるはずだったのだが俺はそこにあるはずの壁をすり抜けて浮遊感に襲われる。
どうやら壁は実際にはなかったようでその向こうには落とし穴の様なものがあるのだろう。
身体を起こそうとしたが何かに吸い込まれるような力が働き俺の意思ではどうにもならない。
その間の時間は本当は一瞬だったのだろうが妙に周りの景色がゆっくり動いているように見える。
ガオンとヘンリーが俺を驚いた表情で見ていたのが妙に印象的だった。
『兄貴っ!』
ガオンが俺を呼ぶその声が次第に遠のき、やがて完全に聞こえなくなった。




