5 冒険者たち
「村長さん、首尾はどうですか?」
「2組の冒険者パーティーから予約が入っているよ」
村長さんに閃光弾と街に卸す商品を納入したときに尋ねるとそんな答えが返ってきた。
最初のツアー客ということで、ある程度時間を掛けて完全予約制にしたそうだ。
「もう少し多いと思ったんですけどね……」
思ったよりも少ない応募で俺としてはちょっと肩透かしだった。
「いくら新しいダンジョンとはいえ、何もなくて空振りに終わることは勿論あるからね。場所が遠いから行き帰りだけで時間のロスもあるし、それなりにコストも掛かる。その日暮らしの冒険者たちは敬遠するんだと思うよ」
「どんな方が来られるんですか?」
「どちらもCランクの冒険者パーティーと聞いてるよ。一組は街を拠点に活動していて、もう一つは辺境伯領で活動しているパーティーだね」
ハイランクの冒険者パーティーの応募がない理由は、そもそもアムレーの街を拠点とするハイランクの冒険者パーティーは少ないことが理由のようだ。
有名な冒険者たちは大きな街に拠点を置いてリスクの割には金になる商人や富裕層の護衛を生業にすることが多いという。
今回できた新しいダンジョンは当然のことながら未知の存在なのでビジネスとして費用対効果を考えるならそこまで旨味はないのかもしれない。
しかし、冒険にロマンを求める多少空振りに終わっても問題ないと考えてくれる人たちもいるわけで、今回応募してくれたのもそういう人たちなのだろう。
冒険者がダンジョンを探索し、その結果、特に何もないダンジョンで肩透かしで終わるなら危険性は低い安全なダンジョンということになる。
それが分かれば近くに住む俺たちは安心して生活することができる。
逆に目を見張るアイテムやレア素材が入手できることが分かれば、今後はハイランク冒険者たちもこぞってダンジョンに潜るだろう。
アイテムや素材のレア度はダンジョン内の魔物の強さに比例すると言われているから、その場合強い魔物が出るダンジョンだということになるが、それゆえに冒険者たちが集まってくれるのなら危険性はやはり下がるだろう。
冒険者が集まればこの村も賑わうだろうから安全を確保できつつ、利益にもなる。
どちらに転んでもこの村に損はない。
そんな皮算用をしつつ準備を重ねいよいよその時が来た。
今日はダンジョンツアーを申し込んだ冒険者たちがユミル村にやってくる初日だ。
予定では村長さんが馬車でいつも通り、この村の商品を街に運び、帰りの便で冒険者たちを連れて帰って来ることになっている。
冒険者パーティーはどちらも3人組だそうだ。
いつもの様に営業していると夕方間近に見覚えのない顔の若い男たちが入ってきた。
物珍しそうに工房の中を見ている3人組みの彼らは直ぐに件の冒険者パーティーだと分かった。
明日の朝一番でこの村を立つのだからダンジョンアタックの前に備品を買うならこのタイミングだろうという予想もあった。
「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」
ポーションか、それとも状態異常回復系か、魔法使い用には魔力回復ポーションもある。
さあ、どれだ?
「すまない、酔い止めの薬は置いているか?」
「はっ? ああ、はい、酔い止めですね。置いていますよ」
いわゆる錬金薬と呼ばれる薬も師匠は得意中の得意だったから俺もオーソドックスなものは作ることができる。
しかし、馬車の移動に慣れているだろう一人前の冒険者が酔い止めか。
勿論、体質的に酔いやすい人はいるがそういう人は予め酔い止めを飲むか用意しておくかしていると思うので不思議に思った。
「どうぞ、酔い止めです」
酔い止め薬を渡すと3人組のうち顔色の悪そうな2人が直ぐに飲んだ。
「どうだ? 治ったか?」
唯一、平気そうな一人が他の二人に声を掛けるが二人は首を横に振る。
「おかしいな、錬金薬なら直ぐに効果が現れるはずだが……」
そう、従来型の薬と違い錬金薬は効果が出るまで時間はかからない。
効果が出ないということはその錬金薬が本来の症状に合ったものではなかったか粗悪品で効果が出なかったかのどちらかだ。
「店主、大変失礼だがさっきの薬は酔い止めで間違いないだろうか?」
「ええ、間違いなく酔い止めの薬ですよ」
「しかし、効果が現れなかった。言いたくはないが……」
暗にうちの商品が粗悪品じゃないかと言いたいのだろう。
彼らは一見のお客様だ。
俺は見た目も若いしそういう結論になるのは仕方のないことだろう。
さて、どうしたものか……。
俺は頭を悩ませた。




