3 ダンジョン
村長さんとダンジョンの話をしながら村へと戻ったわけだが、俺にはどうにも腑に落ちないことがあった。
ダンジョンのことは学院の授業でも学んだことがあった。
しかし、専門である錬金科の授業ではなかったためちょっと記憶が怪しい。
今日は代官に待たされたこともあって街を出る時間はいつもより遅かったため、村に戻ったのはもう夕方を通り越して宵の口だった。そんな時間ではあったが気になったことを確かめるため、俺は自宅に戻ってから荷物の中から学院で使っていたテキストを探すことにした。
「おっ、あったぞ」
学院では最初の半年は各学科に分かれず総合的な勉強をしていた。学科が分かれてからも興味のある授業は受講するようにしていたので他の学科のテキストもそれなりに持っていたりする。
灯りをつけてまずは騎士科の授業で使われていたテキストを読み直してみる
「え~っと『ダンジョンでは貴重なアイテムや素材が見つかることがある』ってことはまあ、それはその通りだろうな」
俺の記憶が正しければ……。
テキストをペラペラとめくる。
「おっ、これだ!」
現在各地に存在しているダンジョンは既に見つかって何年どころか何十年と経っているものばかりのはずだ。
村長さんの言ったようにダンジョンというものはそんなにポンポンできるものではない。
そんなわけで世間では新しくできたダンジョンの特徴というものはそこまで周知されていないのだろう。
俺の記憶にできたばかりのダンジョンではいわゆる初回特典的な話があったような気がしたのでその記述を探していた。
『ダンジョンから入手できるアイテムや素材には初回に一度しか入手できないもの、時間が経つと同じ場所で同じ物が入手できるものがある。前者で入手できるものは後者のものに比べて価値の高いものが多い』
後者であってもノーマルドロップだけではなくレアドロップと呼ばれるものがあるそうだが、前者の初回特典の方がやはり価値が高いとされるものが多いようだ。
つまりはダンジョンに一番乗りの場合にしか入手できないレアアイテムもあるということが裏付けられたわけだ。
その場合、そのこと自体がとてつもないメリットになる。
次に文官科の授業で使われていたテキストを読んでみる。
俺が調べたいのはダンジョンの管理権についてだ。
その結果、ダンジョンの管理権は発生当初はその領内の領主に帰属することが分かった。
今回、俺たちが見つけたダンジョンはこの村と同じ王家直轄領内にあるから管理権は王家に帰属していて、実際の管理は代官が行うということになっている。
つまり、代官からダンジョンの管理権の譲渡を受けることができればあのダンジョンはそこから得られるものも含めて自分たちの自由にできるということだ。
ダンジョンは確かにいつ魔物が溢れ出るか分からない危険なものだが、できたばかりで手付かずのダンジョンにはそれを凌駕するだけのメリットもありそうだ。
もう外は暗い時間ではあったが、事は急を要する話だ。
俺は早速村長さんのところへと向かい、俺が考えていることを提案することにした。
「なるほど、それは面白いかもしれないね」
もう遅い時間ではあったが事が事だけに直ぐに時間をとってもらえた。
俺が提案したのは、敢えて代官からダンジョンの管理権をこの村に譲渡してもらうということだ。
どうせ何もしなくても代官はこっちに対応を丸投げするだろうからそれなら後から問題にならないよう、メリットもこっちが取れるように明確にしておいた方が得だろう。
この村がするべきことは、冒険者ギルドに冒険者に向けての依頼を出すのではなく、新しいダンジョンが発生したことを周知するだけで十分だ。
ただし、その際にしっかりと煽り文句を入れる。
新発見のまだ誰も足を踏み入れていないダンジョン。
手付かずのアイテムや素材。
ダンジョンを踏破することによって得られるだろう名誉。
こちらから依頼しなくてもこれだけで冒険者を惹き付けられるはずだ。
村にダンジョンの管理権があるなら逆にダンジョンへの入場料を取ることもできるし、冒険者を相手にした商売だってできるだろう。
机上の空論となるかもしれないが、手をこまねいていたって何にもならないわけだから取り敢えずやってみるかというのが村長さんの出した結論だ。
これが上手くいけば今後しばらく経ってダンジョンの新規性がなくなってもそれまでに得られた入場料や冒険者たちが村に落とした資金を元にして今度は冒険者に依頼を出してダンジョンの危険を除去することが可能になる。
「ダンジョンの近くにちょうど宿泊施設があるので有料で開放してもいいかもしれませんね」
「ダンジョンで入手できたアイテムや素材を街まで運ぶのは大変だろう。冒険者ギルドにダンジョンの近くに出張所を作ってもらうよう依頼してみようか」
「それを運ぶことを仕事にしてもいいかもしれませんよ」
俺のアイデアを元にして、村長さんと夜遅くまで話し合った。
「よし、それなら直ぐにでも計画を実行に移すため準備を始めよう。当然、きみにも手伝ってもらうよ」
「え゛っ?」
村のためにと思ってアイデアを出しただけのつもりだったが何やら大ごとになりそうだった。




