2 代官邸
時間になったので村長さんと合流すると再び馬車で代官邸へと向かった。
門で衛兵さんの指示に従い、門を入って直ぐの広い場所へと馬車を停めると代官邸の中へと案内される。
応接室へと通されたが中はちょっとごてごてした装飾品で飾られていて俺の感覚からするとセンスのない内装だった。
「急を要する話とは聞いたがいったい何事だ?」
応接室に入ってきたのは身なりの良い衣服を身に纏った、背の低い、ちょっとお腹の出ている中年の男だ。
俺たちはまず挨拶の口上を述べると村長さんが本題を切り出した。
「ダンジョンが発生したというのは本当の話なのか?」
「はい、調査の結果間違いないという結論に。我が村だけでは対応できませんので、ご報告とご相談をと思いまして」
「はぁ、わたしの一存ではどうにもならないな。王都へお伺いを立てるのでしばらくはそちらで対応するように」
代官はひどく面倒くさそうにそう言い捨てた。
「我が村だけでは対応に限界があります。司祭様の話では事は一刻を争う状況だとか」
「そうは言われても予算の都合もあるのでな。しかも場所はここから遠く離れた場所というではないか。多少何かが起こっても大きな問題にはならないだろう」
「しかし」
「ええいっ、くどいぞ! わたしは忙しいのだ、用件がそれだけなら話はもう終わりだ!」
代官はそう言うと席を立ってとっとと部屋から出て行ってしまった。
「まあ、こうなるのではないかとは思っていたけどね……」
帰りの馬車で村長さんがそう零した。
「そうなんですか?」
「ここは辺境にある王家の直轄領だからね。こんな場所に来るお役人様は出世コースから外れた人たちなんだよ。仕事への熱意も低いし、うちの村のような辺境の中の辺境のことなんかどうでもいいっていうのが本音だろう」
村長さんの話では何かあっても以前から同じような対応だったらしい。
そんなわけでユミル村では自助自立を事実上強制されてきたという話でこれまで何でも自分たちだけでやらなければいけなかったという。
錬金術師である俺の招聘もその一環なのだろう。
「一つ質問なんですが、ダンジョンへの対応って具体的に何をするんですか?」
「そうだね、まずはダンジョン内部の調査。ダンジョンに入って中に何があるか、どんな魔物がいるかを調べてその危険性をチェックすることだろう。魔物の氾濫、いわゆるスタンピードが起こる危険がないかが一番の懸念だからね」
「ということはそれをする人手がいるわけですね」
「そうだね。兵士が派遣されることもあれば冒険者が依頼を受けて調査することもある」
「どっちにしてもお金がかかる話だということですか……」
「世知辛いけど、まあそういうことだね」
村長さんは溜息交じりにそう言った。
独自にダンジョンに対応するならば、自分たちでダンジョンに潜るか冒険者にダンジョンの調査や魔物退治を依頼するという2つに1つだろう。
普通、冒険者ではないただの村人が高ランクの魔物が跳梁跋扈するダンジョンに潜るということは危険であり、一歩間違えれば自殺行為だ。
だからどうしても冒険者に対応を依頼するということになるわけだけど、そうなると村の予算で少なくない報酬を支払わなければならなくなる。
現実にはそれだけの余裕がある村はないだろうという話だ。
「これまでこの村の周りにダンジョンができたことはあるんですか?」
「いや、それは聞いたことはないな。そもそもダンジョンというものはそんなにポンポンできるようなものでもないからね。だから正直、今回のことは夢であって欲しいと本気で思うよ」
村長さんにしてみれば今回の事は頭が痛い話だろう。
姫様に連絡しようにもタイミング悪く居場所も分からないし、連絡できたとしてもそれだけでかなりの時間がかかるだろう。
連絡がついてようやく対応を始めても手遅れになる可能性もある。
代官も役に立ちそうもないしこの村でどうにかするしかないのだろうけど、何かいい方法はないだろうか。




