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1 街へ

「ふ~、1か月ぶりだな」


 村長さんの操る馬車に乗ってユミル村の隣街であるアムレーにやってきた。


 村長さんは新しく発見されたダンジョンをお代官様に報告する必要があるそうで、村長さんからダンジョンの発見者である俺にも詳しい説明を求められたときのため同席して欲しいという話だったので快く引き受けた。


「代官邸は街の中心部にあるんだ。大きなお屋敷だから直ぐにわかるよ」


 街中に入ると馬車はゆっくり進む。


俺も村長さんの隣、御者席に座って馬車の上から街並みを眺める。


 王都とは比べるまでもなく小さな街だが、ユミル村にしばらく住んでいるとそんな街でもとても栄えているように感じてしまうので人間というものは不思議なものだ。

 しばらく進むと周りを塀に囲まれた立派なお屋敷が目に入った。

 あそこが代官邸なのだろう。

 村長さんが門の入口で警護の衛兵さんと一言二言話をしている。


「事前のアポイントがなかったから3時間後を指定された。それまでこの街での用事を済ませておこう」


 事前の連絡ができなかったわけだから仕方がない。


しかし、今回の報告は急を要することだと思うが果たしてそこのところは理解されているのだろうか。


 一抹の不安はあったものの俺たちではどうすることもできないため、先に用事を済ませることにした。




 俺たちはまず俺の工房の商品を卸している商店に向かう。


 うちの工房の商品は定期的に村長さんを通じてこの街の商店に卸していて今日も馬車には俺が作った商品が積まれている。


「いらっしゃ、おお、村長さん。待ってましたよ!」


 俺たちが店の入り口に顔を出すと店主さんがそう言って直ぐに駆け寄ってきた。


「どうも、ご無沙汰しています」

「ブランさんもいらっしゃったのですか、いつもありがとうございます。さっそくですが今日の商品を確認させていただいてもいいですか?」


 店主さんは村長さんの荷卸しを手伝い、直ぐに商品の検品を始めた。


「おおっ、ポーションがこんなに! 助かります」

「何かせわしない感じですけど何かありましたか?」


 店の棚を見ると空いている棚がちらほらとある。


これまでと店の様子が違ったように思ったので率直に疑問をぶつけてみた。


「ええ、最近ポーションの需要が高くて仕入れた端から売れていくのですよ。数日前から在庫がなくなったのに問い合わせだけはひっきりなしで……」

「そうでしたか。せっかくですから今後卸す商品についての話をと思ったのですが」

「でしたらポーションの増産をお願いします。冒険者からの話を聞く限りでは、ここ最近、魔物の数が増えたようなんです」

「そうなんですか?」


 確かにここ最近、俺たちの周りでもこれまでと違ったことがいろいろと起こっているように感じる。


 それはユミル村の周りだけに限らないということだろう。


 あと、この商店を窓口にして商品を卸している行商人さんからの伝言で同じくポーションの増産の他、状態異常解除の特殊系ポーションの発注も受けた。


「ところでブランさんの工房は何人でされているのですか?」


 雑談の一区切りというところで店主さんからそう聞かれた。


「うちですか? うちは私だけです、だから1人ですね」


「そうなのですか。まだお若いとはいえ腕がいいわけですからお弟子さんの一人でもいらっしゃるのかと」


「私もつい先日、師匠の工房から独立したばかりですからね」


 そんな取り留めもない話をしていると村長さんから次の配達先に行くと言われたので、待ち合わせの時間と場所を決めて村長さんとは別れることになった。


 忘れそうになるところだったが商業ギルドに行って師匠への送金をしておかないとな。


 これを忘れるとちょっとどうなるか予想がつかないというのが怖いところだ。


 俺は商店を出て商業ギルドに行くと口座の残高を確認して師匠への送金の手続をした。


 商店に卸した商品の代金が俺の口座に入金されているかもチェックする。


 ちゃんと入金があったし堅実に残高が増えている。

 

「あっ、ブランさん、ちょうどいいところに」


 残高を確認してニヤニヤしていたところ受付の女性職員さんにそう声を掛けられた。


「いったいなんでしょうか?」


「ブランさん宛てにお手紙が届いています、確かにお渡ししましたよ」


 即座にキリっとした表情で対応すると職員さんから3通の封筒を受け取った。


「姫様に、ルークに、エレンからか……」


 封を開けて中の手紙を読むとそのどれもが内容的に同じものだった。


 仕事でしばらく王都を離れるということで必要な連絡があれば向こうからするという内容だった。


 しかし、こうして3人からの手紙を比べると字に個性というか気持ちの入り方がよく分かる。


 姫様の字は綺麗であるだけでなくどこかに動き出しそうな活発そうな字、ルークの字はいつも変わらず淡々とした冷静な字、エレンの字はその時々によって変わるが今回は勢いというか覇気のないしょんぼりとした印象を受ける字だ。


「3人とも頑張ってるんだな~」


 こっちもそれなりに忙しくなってきたけど一時的なものだろう。


 俺は俺で理想のスローライフを送るため頑張るとしよう。


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