18 異変
「おねむなの……」
昼ご飯を食べた後、シロと遊んでいたミリーがトコトコとやってくると俺に抱き着いてきた。
何というか瑞々しい草原というか新緑の様ないい香りがする。
さっきまで芝生でシロといっしょに寝転んだりしていたみたいだからだろうか。
「眠いなら寝たらいいよ」
ミリーにそう言うとミリーは胡坐をかいて座っている俺の足にコテンと頭を乗せて横になった。
そしてすぐに「すーすー」と寝息を立て始めた。
「すっかり懐いていますね」
ソフィアさんが目を細めて言った。
「それはソフィアさんにもでしょう?」
「しかし、わたしとブランさんだとミリーは迷わずブランさんの方に行きますよ。わたしの方が毎日一緒にいるのにちょっと悔しいです」
「それは私の方が珍しいというかレア感があるからではないでしょうか? 人間、いつでも手に入るものには価値をなかなか見出せないといいますから」
「そうですね、ではそういうことにしておきましょうか」
ソフィアさんはそう言って湖の方へと目を向ける。
初夏で日差しが強くなったとはいえ、木陰にいるのでそこまで暑くはないし湖から吹いて来る風は冷たくて気持ちいい。
「こうしているとなんだか平和ですね」
「そうですね、辺境とはいえ魔素で汚染されている地域ばかりではありませんし」
ソフィアさんのように辺境の地に派遣されて魔素を浄化してくれる人たちがいるから今くらいで済んでいるのだろう。
「ソフィアさん、お仕事の方はどうですか?」
「ブランさんのおかげで自警団の方たちに護衛をしてもらえるようになって各段に進みましたよ」
以前、ソフィアさんから村の外の冒険者に頼むのは費用的に厳しいという話を聞いたのでこの村の人たちに護衛を頼めないかという話をしたことがあった。その結果、俺だけではなくソフィアさんも村の人たちに安く護衛を頼むことができるようになり、村の外の調査をしやすくなったということだ。
「そういった訳で調査だけでなく、浄化も進んでいるんですよ」
ソフィアさんが破顔してそう言った。
いくら希望せずに飛ばされた辺境の地とはいえ、教会の上には進捗状況を報告しないといけないらしく今は少なくとも叱責されるような状態ではないとのことだ。
ソフィアさんとのんびりお互いの話をして、この後、お昼寝から目覚めたミリーを連れて湖の浅い場所で水遊びをした。
湖の水は冷たくて暑い中で気持ちがいい。
こうして俺たちは夕方になるまで湖の中で周りで涼しい時間を過ごした。
村長さんが期待するようなことは何もなく宿泊施設での一夜を過ごし、翌朝、朝食をとった後、俺たちは湖の傍にある森に散歩に出掛けた。
錬金術師である俺としては何か面白い素材がないかと気になるところだし、日頃主に村の教会で過ごすソフィアさんは森に入ることも少ないとのことなので森林浴といったところだ。
俺はミリーと手をつないで歩く。ソフィアさんもミリーの反対側の手をつないでミリーを真ん中にして3人横一列になってのんびり森の中を歩いた。
「森の中はひんやりとして気持ちがいいですね~」
「きもちがいいの」
ソフィアさんに続いてミリーもニコニコしながらそう言った。
ミリーは心なしか血色が良いように見える。
すこぶる体調が良さそうだ。
いつも元気な子だけど森にいると輪を掛けて元気に見える。
一方で森の中を歩いたものの俺の期待に応えるような素材は見つからなかった。
せっかくのバカンスなのにそんなことを考えてしまう自分自身がちょっと残念だ。
「そろそろお昼ですね」
森の中とはいえ、気温がぐんぐん上昇してきていることはわかる。
あと、小腹も空いてきたしもうお昼前なのは間違いないだろう。
「キャンキャン」
宿泊施設に戻ろうとしたところでシロが森の中のある場所に向かって吠え始めた。
そこは山際になっていて大きな岩がある場所だった。
そこに何かあるのだろうか?
そう思って何気なくその場所に近づいていくとある地点から異様に高い魔力を感じた。
「ソフィアさんっ!」
「魔力だけではないですね。強い魔素も感じます。あの岩の辺りからです」
司祭のソフィアさんは魔力だけではなく魔素の感知もできる。
魔素が濃いということは魔物が現れてもおかしくはない。
いざというときに備えて、一応は腰に鉄の剣をぶら下げている。
ただの錬金術師とはいえ、これでも一応は男なのだ。
一緒にいる子供や女性を守るだけの気概はあるつもりだ。
ミリーは危ないのでシロと一緒に動かないように言い聞かせて、俺とソフィアさんはその岩の周りを調べることにした。




