14 仁義なき戦い?
お酒は20歳になってから
表彰が終われば後はもう飲めや歌えやの大騒ぎである。
食堂の中に村人全員が当然入り切れるわけもないため、基本的には野外でのバーベキュー大会だ。
とはいえ、優勝者の俺には村長を始めとする村のお偉方用に用意されている食堂の屋内席が用意された。
「ブランくん、大活躍だったじゃないか。まあ、飲みたまえ」
「いただきます」
村長さんからグラスにエールをついでもらう。
――トクトクトク
黄金色の液体と泡立つ白い泡。
キンキンに冷やされたエールに口をつけると一日の疲れが一気に吹き飛ぶ。
「ぷっは~」
「おお、いい飲みっぷりじゃないか」
村長さんにそう言われて追加のエールを注いでもらう。
「この村に来てもう3か月だがどうだい? もう慣れたかい?」
「はい、お陰様で」
「それは良かった。見ての通り田舎の村だからね。王都出身の若者には刺激が少ないから心配していたんだよ」
普通にCランクの魔物や地竜がいておまけに特殊個体の『茨の王』にも遭遇するしで刺激はもういっぱいいっぱいなんですが?
俺は苦笑いしながら「やっぱりスローライフが一番ですね」と返した。
そう、この辺境の村での俺のスローライフはまだ始まったばかりなのだから!
おっと、何かが終わりそうな雰囲気になってしまったが何だったんだろうか?
その後も村長さん以外の村の年配の人たちから代わる代わる祝意と称賛をいただいた。
「おいおい、おっさんばかりに付き合わせたらかわいそうだろうが」
そう言って食堂に入ってきたのは今の今までオークを捌いていたのだろう肉屋のカインさんだった。
「カインさん、お疲れ様です」
「おお、カイン。ご苦労だったな、さあこっちへ来て一杯やれ」
村長さんがカインさんを手招きしてこっちへ呼んだ。
「ブラン、お前もこんなおっさんばっかり相手にするのも大変だろ。あっちで若い女の子たちと遊んでこい」
カインさんがそう言って指差した先にはキャロルをはじめとする村の年頃の女の子たちが占拠していたテーブルだった。
カインさんに言われて視線を送ると俺の視線に気付いたキャロルが手招きしたので行ってみた。
「おー、今日の主役の登場だー」
「ブランくん、凄かったねー」
「こっちこっち、ここが空いてるよ」
他のテーブルから椅子を一つ持ってきて俺用に用意してくれた。
「おっとっと」
グラスにエールをお酌してもらってグビッと一気に喉に流し込む。
「おー、いーのみっぷりだねー」
同じテーブルの女の子たちに代わる代わるお酌をしてもらってほろ酔い気分でいい気分。
これ、後で追加料金とか請求されないよね?
「それにしても錬金術師なのに戦闘もできるなんてほんとブランは何でもできるのね~」
「いや、それほどでも」
ほとんどシロお蔭なんだけどもういいや。
「あっ、ワンちゃんも来た」
「お肉食べるのかな?」
俺と一緒にこっちに来たシロも女の子たちに肉を食べさせてもらって満足気だ。
というかお前が真の英雄だからな。
もう好きなだけ食ってくれ。
「ねー、ブラン。今日貰った宿泊施設の使用権。誰と行くか決めた?」
「えっ、あれってそういう奴なの?」
「あったりまえでしょ~。カップルで行ってそこで子作りしてこいって意味に決まってるじゃない」
「ぶーーーーっ!」
あまりにも明け透けな物言いに流石に吹いてしまった。
というかキャロルもかなり酔ってるな?
「ちょっと、ブラン、きたないでしょ~」
ケラケラとキャロルが笑いながら俺にしなだれかかってきた。
「ねえ、ブラン。もし行く相手が決まってないなら……」
――ドン!
キャロルの声に被せるようにテーブルの上にジョッキが叩きつけられるように置かれた。
物凄く大きな音がした。
「こちらこのテーブルですよね~? えっ、違う? おっかしいな~、そんなことないですよね? ねっ?」
このお祭りで給仕をしている宿屋(というか食堂)の娘であるレナちゃんがそう言って確認を求めた。
「ちょとレナ! これ違うし、それと邪魔しないでよねっ!」
「邪魔? えっ、何のこと~? レナわかんな~い」
二人の視線が交錯する。
なんかもうバチバチ火花が散りそうと言ったらいいのだろうか。
「まっ、まあまあ。二人ともここは穏便に、ねっ。それにしてもレナちゃんは今日ずっと動きっぱなしで大変だね」
「そうなんですよ~。ねえ、おにいさ~ん、そんな働き者のわたしを労ってくれません?コテージに一晩一緒に泊まればきっとリフレッシュできますよ~」
レナちゃんがそう言って俺の後ろから抱き付いてきた。
「ちょっと、レナっ! 仕事中でしょっ! ブランから離れなさいよっ!」
「おにいさ~ん、レナ、今夜は帰りたくな~い」
いや、ここ食堂だしレナちゃんちだよね?
それはともかく俺みたいなのでもこんなにモテるようになるなんて正直思わなかったな。
しかし、これはあくまでもお祭りのテンションによる一時的なものだろう。
そう、冷静にならないといけない。
お祭りのテンションに身を任せると次の日に何であのときこんなモノを買ってしまったのかと落ち込むようなことになりかねない。
俺の身体の一部はちょっと冷静じゃないけど精力旺盛な若者ゆえにそれは仕方がないだろう。
それにしてもこの状況、角を立てずにどうにか穏便に済ませる何かいい手は……
「おいぬさん、いっぱいたべてるの」
「キャンキャン」
ふと声がする方を見るとオーク肉をがつがつと食べているシロのところに幼女が来ていた。
そうだ、ひらめいた!
ここではこれが最上の一手のはずだ!
「二人ともごめん。実はコテージにはあの子と一緒に行くんだ」
「「えっ?」」
「?」
俺は知る由もなかった。
実は俺がロリコンだとか、本命は保護者役のソフィアさんだとかそういった噂が村の女性たち限定で広まっていたことを知ったのはずっとずっと後のことだった。




