9 それからのこと
思いがけず『茨の王』と遭遇し何とか生き残ることができた俺たちは村へと戻った。
村に戻るとガオンやヘンリーとともに急いで『茨の王』を倒したことを報告に向かった。
報告先は自警団の団長であるカインさん。
肉屋の営業中だったが時間をとってもらうことができた。
討伐の証拠となる部位は俺がバラバラにしてしまったため提出できなかったが、鱗の大盾に突き刺さった大きな棘と両手で抱えないと運ぶことができそうもない巨大な魔石の存在によってその事実は公式に認められることになった。
そして何よりもカインさんを驚かせたのがそれをやったのが錬金術師に過ぎない俺だということだ。
強力過ぎる分解スキルのことは秘密にしておきたかったので無属性の射程のない魔法ということでぼかしておいた。あながち間違ってはいないと思う。
ただ、あまり話が大きくなり過ぎるのは困るのでカインさんにお願いして茨の王は弱っていたところキャロルを除く俺たち自警団の若手3人が協力してなんとか倒したということにしておいてもらった。
「そうそう、そろそろあの時期だからお前らもしっかり準備しておけよ」
別れ際にカインさんに言われた言葉に俺は首を傾げる。
「ああ、兄貴は初めてでしょうからわからないでしょうね」
「いったい何の話だ?」
「お祭りですよ。お祭り」
なるほど。
村祭りというやつか。
「しかし、普通祭りは秋にやるんじゃないのか?」
今はまだ初夏だ。
この時期にお祭りをやるという話はあまり聞いたことがない。
「いえ、勿論秋にもやるんですが、この時期にも大体やるんですよ」
「そうなのか? で、いつやるんだ?」
「それはそのときになってみないとわからないですね」
わからない?
わからないことがわからない。
ちょっと前にもこういうことがあったような気がするがいつ開催されるかが決まっていないお祭りとかあるのだろうか?
俺は疑問に思いながらガオンたちと別れた。
「ふー、疲れた」
身体に鞭打って工房へと戻る。
「おにいちゃん、おかえりなの」
「キャンキャン」
庭では幼女と白い犬が戯れていた。
「ただいま」
そう言ってトコトコと近づいてきた幼女の頭を撫でた。
「そうそう、この前もらったおくすり使わせてもらったよ。ありがとう」
「それはよかったの」
そう言って幼女はもう一つエリクサーだろう小瓶を取り出し俺の前に出した。
「くれるの?」
俺の問いに幼女は2回ほど頷いた。
「でも、そうすると……」
俺が言い終わる前に幼女はさらに小瓶を取り出した。
いったい何個持ってるんだ?
俺は疑問を抱きながらも差し出された小瓶を御礼を言って受け取った。
夕方近くになるとソフィアさんが幼女を迎えに来て幼女はソフィアさんと一緒に教会というか孤児院に帰っていった。
幼女と一緒にいた白い犬は一緒には帰らないみたいだ。
「お前はどこに行くんだ?」
人の言葉を分かるわけがないとは思いながらも俺はそう犬に声を掛けた。
犬はトコトコと歩き出したので俺はその後をついていく。
すると工房の裏側に生えている幼女の植えた木の側で寝そべった。
「……また大きくなっていないか?」
幼女の植えた木は前回見たときはまだひょろひょろとした幹で俺よりちょっと背丈が高いくらいだった。
しかし、いつのまにかどっしりとした太さの幹になっていて高さも数メートルはあるそれなりの木になっていた。
そしてどうやらこの犬はこの木の傍に居ついてしまったようだ。
この犬はあの幼女のお気に入りというか遊び相手みたいだし、幼女にはちょっと返すのが難しいレベルの借りもできてしまった。
お返しの意味も込めてこの犬がココにいる間は俺が面倒をみることにした。
そのうち犬小屋でも作ってやるかと思いながら俺は工房に戻った。




