閑話1 嵐の前
※ 第三者視点です
「国内の魔物の発生状況を報告致します」
王都にある王城の一角。
その会議室。
定期的に行われる報告会議において騎士団総長が立ち上がり報告を始めた。
「魔物の発生は特に辺境地域において顕著。しかも従来出現しなかった高ランクの魔物の発生例が多数報告されております」
その報告に会議の出席者がにわかに騒めいた。
「王都や都市部周辺ではどうだ?」
「王都や大都市の周辺においては今のところ特別な動きは見られません。ただ、地方では街道での魔物目撃例が増加しているとの報告があります」
「引き続き状況を監視せよ」
「はっ!」
会議を取り仕切る宰相は次の議題へと移る。
会議が終わると会議に臨席していた国王が「はぁ~っ」と大きな溜息をついた。
「陛下もお疲れが溜まっておいでですな。会議は短くしたつもりでしたが」
「いや、今日の会議がというわけではなくてな……」
その表情に宰相は「あっ」と思い至る。
「第二王女殿下の?」
その問いかけに国王はうなだれるように頷いた。
「そろそろご出発の時期でしたな」
「何事もなく帰ってきてくれたらよいが」
国王も宰相も第二王女の身に万一のことが起きることを心配しているわけではない。
第二王女の行動によってこの国の命運を左右するような大事件が起きなければいいなー。
二人の不安はただその一点だけにあった。
――王都の郊外
飛空艇発着場には出発を待つ王家所有の飛空艇があった。
「皆さん、搭乗しますわよ」
そう言って勇んで飛空艇に乗り込むのはこの国の第二王女のユーフィリア・ラ・レグナム。そしてそれに付き従うメイド服を身に纏った侍女、そして騎士正装姿のルークにローブを身に纏ったエレンだ。
ルークは初めて乗る飛空艇に興味深々。
仕事として護衛対象であるユーフィリアの周りを警戒しつつも目を輝かせて飛空艇のあちらこちらを見ている。
一方のエレンはどんよりとした死んだ魚の様な目をしてトボトボと飛空艇に乗り込んだ。
「殿下はお元気ですね」
「それはもう! この日が来るのをどれだけ待ちわびたことか」
ユーフィリアはルークの言葉を満面の笑みで肯定した。
ユーフィリアは父親である国王と賭けをしていた。
もしも学院で文官科と騎士科を同時に首席で卒業できたら卒業後、自分の好きなようにさせて欲しいと。
その代わりもしもそれができなければ言われるがままに政略結婚の道具にでもなんでもなると。
その賭けに国王は乗ってしまった。
迂闊にも。
天才肌ではあったが何に対しても興味を持たず、やる気もない愛娘が何やら本気になってくれた。
しかも並み居る高位貴族の子弟に興味を持たず、結婚に消極的だった娘に婚約者を宛てがう千載一遇のチャンス。
逃すわけにはいかなかった。
しかし、その賭けは失敗に終わった。
「ふふ、お父様にも損はさせませんよ」
この姫様。
何もフリーでこの国をブラブラしようというわけではない。
その肩書は『特別巡察使』なる地方領主の監督をする身分である。
魔女が予言した嵐とは別の大嵐が王国中に吹き荒れようとしていた。




