2 長い一日
庭の隅に生えている木の影に幼女と犬を連れていく。
木の影に隠れれば幹がそれなりに太い木なので道を通る人たちからこちらは見えない場所だ。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
俺は荒く息をして目の前の幼女に熱い視線を送る。
「では診察しますので服を脱いで下さい」
「はい……」
恥ずかしそうに俯きながらゆっくりと服を脱ぐ。
そうして露わになった膨らみのない胸にゆっくりと手が伸びた。
ひんやりとした感触が心地いい。
「う~ん、ドキドキが早いですね。これは病気です。おくすりをだしましょう」
「病気ですか!?」
「はい。でもおくすりを飲めば大丈夫です」
「そうですか。ありがとうございました」
俺はそう御礼を言っていそいそと脱いでいた服を着た。
病気で呼吸の荒い患者を見事に演じきった俺は大満足だ。
「むっふ~」
お医者さん役をした幼女も得意な顔で何か誇らしげな表情を浮かべている。
まあ、この年代の子は背伸びしたい年頃だろうからな。
ママゴトでも大人の役をやりたがるみたいだし。
「おにいちゃん、おにいちゃん」
俺が服を着ながら漠然とそう考えていると幼女から指でツンツンと突かれた。
「なんだい?」
「おくすりなの」
見れば幼女の手には小瓶があってその中に白色をした液体が入っている。
どこに持っていたんだろうか。
「くれるのかい?」
「そうなの」
俺は「ありがとう」と御礼を言って小瓶を受け取るとズボンのポケットにしまった。
その後、犬と遊ぼうとボールや木の枝を投げたが幼女が投げたものには反応するのに俺が投げても全く反応しなかった。
何故だ?
俺がすることには犬は欠伸をするだけで一歩も動こうとはしなかった。
投げた物を俺が拾いに行ってまた投げて拾いに行ってということを繰り返したら何か俺が1人で遊んでいるみたいになった。
何の嫌がらせだ。
諦めてそれからは庭に生えている白編草で一緒に冠を作ったりして遊んだ。
こんな風にゆっくりと小さな子供と遊ぶというのも時にはいいものだ。
これはスローライフと言っていいんじゃないだろうか。
俺には子供どころか結婚するような相手もまだいないがいつか俺にもこんな小さな子供ができる日が来るんだろうか。
そう思いながら幼女と遊んでいるといつの間にか夕暮れの時間になっていた。
「そろそろ日が暮れる時間だ。もうおうちに帰った方がいいだろうね」
俺が幼女にそう声を掛ける。
「おうち?」
「そう、きみのおうちだよ」
まだ自分の家というのがはっきり理解できていないだろうか?
「お父さんとお母さんと一緒に住んでいるところだよ」
「う~ん」
幼女は考え込んでしまった。
おかしいな。
ひょっとしたらお父さんやお母さんはいないのかもしれない。
だとしたら申し訳なかったな。
そんなとき、工房の前の道を村長さんが通りがかるのを見つけた。
「あっ、村長さん。ちょうどいいところに」
「んっ、何か用かい?」
「実はこの子、迷子みたいなんです。どこのお宅のお子さんでしょうか?」
俺は幼女を村長さんに見てもらう。
村長さんならこの村の子であればだいたいは把握しているだろう。
しかし、俺の耳に聞こえてきたのは予想もしない言葉だった。
「きみはどこの子だい? 少なくともこの村の子供じゃないね」
俺の一日はまだ終わりそうもなかった。




