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閑話 魔女

 ※ 第三者視点です

 

 時間は少し遡って卒業式が終わった直後の王立高等学院本部棟。

 


 ――コツ、コツ、コツ

 


 大理石でできた廊下を杖を突いて歩く一人の老婆がいた。


 老婆はこの学院の最上階にある学院長室の隣にある豪奢な扉の前へとやってきた。


 この豪奢な扉の部屋はこの学院の貴賓室だ。


 今は学院長がこの国の最高権力者をもてなしている。


 扉の前には鎧姿の2人の騎士が立っていた。


 一人は中年でベテランの、もう一人は若い男だ。


「何者だ! 許可のない者を通すわけにはいかん。直ぐに立ち去れい!」


「許可か。ならば『魔女』が来たと伝えな。それで済む」


「『魔女』だと?」


 若い騎士と老婆の問答にベテランの騎士が顔をしかめて呟いた。


「おかしなことを言うな! 去らねば……」


「いや、ちょっと待て。直ぐに確認する。いいか、絶対に何もするなよ。絶対だぞ!」


 ベテランの騎士は若い騎士にそう念押しすると扉越しに中の者と二言三言会話すると扉を開けて部屋の中へと入っていった。


 ベテランの騎士は直ぐに直属の上司である近衛騎士団長へと来客を告げた。


 近衛騎士団長はその名を確認するや直ぐに主君である国王の元へと行き耳打ちする。


「陛下、『魔女』殿がこの部屋の外に……」


 学院長たちと会話を楽しんでいた国王がその言葉にピタリと動きを止めた。


「直ぐに、直ぐにお通ししろ!」


 国王の対応に周りが訝しがる。


「陛下、いかがなさいました」


 来賓の1人。


 初老で白髪の財務大臣がそう声を掛けた。


「『魔女』殿のお越しだ、皆、粗相のないように」


 国王がそう言った直後、貴賓室の扉が開き、外から一人の老婆がゆっくりとした足取りで部屋へと入ってきた。


 深く刻まれたしわだらけの顔。


 頭に被っている真っ黒なトンガリ帽子から長い白髪が溢れている。


 身に着けているのは闇夜を凝縮したような漆黒のローブ。


 手には年季の入った木製の杖。



「これはアルメリヒ殿、本日はどんなご用件で?」


「学院長に挨拶がてら久しぶりに小僧の顔でも見ておこうかと思ったまでよ。多少はマシな面構つらがまえになったか?」


 老婆はそう言って持っていた杖の先を国王へと向けた。


「なっ!?」


 老婆の態度にこの部屋にいた来賓の一人、


 若い貴族が思わず声をあげて椅子から立ち上がる。


「貴様、れうっ」

「よせ、止めろ!」


 その瞬間、隣にいた中年の貴族が若い貴族の口を塞ぎ肩を押さえつけて、椅子に座らせた。



「……何か言ったか?」


「いえ、何も……」


 老婆がギロリと視線を向けると中年の貴族は何事もなかったかのように澄まして返した。


 その額には汗が滲み出ている。


「まあよい。おお、学院長、うちの子が世話になったの~」


「これは勿体ないお言葉。恐縮でございます」


「ふぇっふぇっふぇっ、そんなに謙遜するな。まあ、この学院も以前に比べれば多少はマシになったというものよ。して小僧。小僧の娘、何と言ったか……」


「ユーフィリア、でございましょうか?」


「おお、そうそう。あの娘子むすめご、なかなか見所がある。これでしばらくはこの国も安泰かの~」


「お褒めいただき勿体のうございます」


 国王と老婆との会話を周りはハラハラしながら見守る。


 中年の貴族は息を殺し、若い貴族は混乱しつつも黙って成り行きを見守っている。


「ふむ、家臣の顔ぶれも変わったかの。時間ときが経つのは早いものよ。それはともかくとしてこれから嵐が来る。しっかりと用心することじゃ」


「なっ! それはいったい!?」


 老婆は国王の問いに答えることなくそう言い残すと踵を返して部屋を出ていった。


 そして入り口の騎士によって貴賓室の扉が再び閉められ、そうして初めて部屋の中の空気が弛緩した。


「ふ~、相変わらずだな」


「まったくもって……」


 国王と学院長がそう言って姿勢を崩し、お互いに視線を合わせた。


「ちょっ、ちょっとお待ち下さい。あの者は一体!」


 先ほど老婆の無礼を咎め掛けた若い貴族がそう声をあげた。


「そうか、もう知らない世代が現れたか、これはぬかったな」


「そうですな、それだけ平和が長かった。そういうことでしょうな」


 国王と学院長の会話になお若い貴族は首を傾げた。



「聞いたことはございませんかな? この国で『魔女』を名乗ることが出来る者は過去においても現在においても唯一人。その者以外は決して『魔女』を名乗ることは許されない」


「それはアレですか? 昔話でいうところの?」


「左様でございます。400年前、我が国の建国に多大な貢献をしたという一人の大魔法使い。その功績をたたえ初代国王陛下がこの国ではその者以外が『魔女』を名乗ることを禁じた、その話でございます」


「そっ、そんなっ、じゃあ、今の老婆がその『魔女』だとおっしゃるのですかっ? そんなバカなっ」


「おい、陛下の御前だぞっ」


「あっ、もっ、申し訳ございません……」


 若い貴族は中年の貴族から諭されて自らの失言を詫びた。


「まあ、よい。そちの気持ちもよくわかる。だがアレは我々が決してどうにかしようとしてはならぬ。そして絶対に敵対してはならぬ。これだけはよく覚えておけ」


「……御意」


 国王の言葉に若い貴族は吐き出すようにそう言って頭を下げた。


「しかし、嵐か……。よからぬことが起こらなければ良いが『魔女』殿のお言葉。これは安穏とはしておれんか……」


 国王はそう言って窓から見えるよく晴れた空を眺めた。



 ――魔女



 この国においてこの言葉が指す者は過去においても現在においても唯一人。


 そしてその者が今もなお存命して(生きて)いることを知る者はごくわずかに過ぎない。

 プロローグは以上です。


 ブックマーク未了の方で『もう少し読んでみてもいいかな?』と思われましたらブックマークをお願いします。


 次話からはスローライフに向かいます。

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