閑話1 卒業から2か月
※ 第三者視点です
「勅命! 第二王女付近衛騎士を命じる」
その言葉に講堂が大きなざわめきに包まれる。
ここは王都レグリスにある騎士団本部の講堂。
この春に入ったばかりの騎士の卵たちは約2か月の訓練を終えて配属先を次々に読み上げられていた。
出世コースと言われる王都を守護する第一騎士団入りを決めて喜ぶ者、辺境の砦に飛ばされて肩を落とす者、悲喜こもごもの様相が展開される中、一際大きな注目を集めた辞令であった。
通常であれば騎士団総長の名で下される辞令が、勅命つまりは国王の命令という形で下されることからもその異常性がわかるだろう。
「新人の配属先が近衛騎士とは……」
「しかも第二王女付……」
近衛騎士はいわゆるエリートの中のエリートの扱いである。
その近衛騎士の中でも国王付の近衛騎士が言うまでもなく最上位であり、もっとも人気があることは間違いない。
しかし、今回の第二王女付というポジションはそれに勝らず劣らずといっても過言ではない。
王族は多数おり、近衛騎士の中でもどの王族付かでそのランクが付けられている。近衛騎士の中でも人気のあるなしというのは残念ながら存在した。
そんな中でも第二王女付が人気であることは間違いない。
いや、正確には配属先としてあればという前提ではあるが。
その容姿、能力そして表向きの人柄は国民は勿論、騎士たちを含めた家臣を惹き付けてやまない。
件の殿下本人はこれまで近衛騎士を置くことを了解しなかったため、側仕えを除いて近衛騎士は未だにいなかった。それゆえ第二王女付の近衛騎士という配属先は存在しないとさえいわれていた。
今回のこの人事は騎士団の最上層部以外には事前に知らされていなかったのだろう。
突然の発表に臨席していた騎士団のそこそこレベルのお偉方も驚きの表情を浮かべている。
この大きな注目の人事となった対象者であるが、その若者はこの春ブランとともに学院を卒業したばかりの何の変哲もない、それどころか貴族ですらない平民の男だった。その当事者であるルークは自分に集まる多くの視線に内心溜息をつきつつも表情だけはキリっとさせて勅書を受け取った。
一方で同じく王都で人生の岐路に立たされている者がもう一人いた。
「エレンくん。きみ、明日から来なくていいよ」
「はっ?」
王都にある王立研究院。
その院長室。
白髪交じりの痩せこけた老人の前でエレンことエレオノーラ・ディ・ハインリッテは目を白黒させた。
「ああ、言葉が足りなかったね。きみ、明日から出向だから。行き先は王宮ね。具体的な配属先は王宮の担当者に聞いてね」
「えっ、王宮? なんで……」
「わしとしては優秀な若者を外に出すのは忍びないのだがね。しかし『勅命』と言われては従うしかないのだよ」
エレンはその一言で全てを悟った。
「王宮からは人事評価を最高待遇にするように言われているからね。うちに戻ってきたときには3階級特進だよ。やったね!」
「はぁ……」
エレンからは気の抜けたような言葉しか出なかった。
エレンが院長室から出ると、力が一気に抜けたのかドアを閉めると廊下にへたり込んでしまった。
「わたし、ここに戻ってこれるのかしら……」
十中十、あの姫様の差し金だろう。
ただあの姫様に振り回されて再びこの場に無事戻ってくることができるのか。
エレンはただそれだけが心配だった。




