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19 お届物

 俺の納入先が新たに開拓され、工房の名前が人知れず決まったそのとき、一人の若い女性が店に飛び込んできた。


 この女性ひとには見覚えがある。


 さっき師匠への送金のために行った商業ギルドの受付をしていたお嬢さんだ。


 ギルドの顔となる窓口に配置されているだけあって容姿が整っている美人さんだ。


「ブランさん、ここにいらっしゃいましたか」


 そんな美人なお姉様からニッコリと微笑まれてにこやかに話しかけられると自分に惚れているのではないかと錯覚してしまいそうになる。


 待て待て、これは罠だぞ!


 俺は自分にそう言い聞かせながら「なんでしょう?」とこちらも営業スマイルでニッコリ応じる。


 思った通り、俺への愛の告白ではなく商業ギルド止めで俺宛てに届いていた荷物があったのを伝え忘れたという話だった。





「誰からだろうか?」


 商業ギルドで渡されたのは俺が1人で何とか抱えられるサイズの木箱で手に持つとズッシリと重い。


 発送人の名前を見ると王都にいる俺の親友ルークからだった。


 騎士団に入った彼は元気でやっているだろうか。


 王都を離れてまだ2か月だが随分時間が経ってしまった気がする。


 村長さんと昼食を一緒に食べて自宅に戻ってから木箱を開けるとそこには大量の冊子や本が入っていた。


 しかしそれらは見るからに尋常なモノではなかった。


「……コレ、ヤバくね?」


 以前にもらった艶本なんかは一応合法なモノであり、所持や取引をしても咎められることはない。


 しかし、この艶本とは別に裏本と呼ばれる非合法な代物があるのだが、木箱に入っていたものは正にそれだった。

 艶本は大事なトコロは隠れているし、出ててもギリセーフといったものであくまでも大人向け娯楽本として許されているモノだ。

 一方で裏本は、あんなところやこんなところが細かく描写され、男女がくんずほぐれつアッハーンしている場面が描かれていたりする。風紀を乱すとお上によってご禁制品とされている。


 一緒に入っていた親友からの手紙には騎士団で押収したものだけど廃棄するのはもったいないので送ります、と書いてあった。


 横流しじゃねーか!


 俺たちのグループで唯一まともだと思っていた俺の親友は騎士団に入って早々に大それた悪事に手を染める不良騎士になってしまった!


 そう思ったのも束の間。


 手紙の最後には「国から許可はもらっているので安心して下さい」と書かれていた。


 えっ? 


 国の許可?


 裏本に許可なんか出るの?


 名目的には辺境の地で性教育を行うための資料として使うということになっているらしい。


 いや、辺境だからって未開の部族とかじゃないんだから。


 むしろ未開の部族とかの方が体験的にそういうことに詳しいかもしれないけど。


 裏本の裏、といっても表ではなくやっぱり裏に目をやると確かに『レグナム王国検閲許可済』の押印がある。


 こんなふざけた理由で許可をもらうなんてどんな裏技を使ったのだろうか。


 俺が首を捻っていると木箱の中には親友からの手紙以外にもう1通俺宛ての手紙が入っていた。



 ――貸し1、ですわよ



 ぶわっと身の毛がよだち、さーっと自分の血の気の引く音がした。


 手紙にはたった1行。


 名前も書かれてない。


 しかし、これが誰からのモノかは直ぐにわかった。


 俺はこの世で一番借りを作ってはいけない女性ひとに一方的に借りを作らされてしまった。


 しょうがない、相手が悪かった。


 潔く諦めよう。


 まあ、王都とユミル村では離れ過ぎているし借りを返さないといけないような機会もそうそうないだろう。


 取り敢えず親友ルークと姫様に、あと師匠にも手紙を書いて送ることにした。

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