18 なし崩し
――ガタンゴトン
村長さんが御者をする馬車に揺られながらユミル村の最寄の街、アムレーへと向かう。
今日は商業ギルドから師匠に仕送りをする日だ。
ついでに俺が作った商品は村長さんが街へ運ぶという契約になっているが1か月経つので挨拶と市場調査を兼ねて顔を出す予定だ。
「それにしても寂しくなりますね」
今日の馬車の乗客はいつものような俺一人だけではない。
「いつまでも休んでばかりいるわけにはいきませんからね」
リセルさんはそう言いながら自分の武器の手入れをしている。武器の良し悪しはよくわからないがガオンや自警団の面々が持っているのよりは質が良さそうだ。なんというか高級品のオーラが出ている。
マーガレットが持っている方は更に高級そうに見える。
この日、リセルさんとマーガレットは村を出て再び冒険者としての活動を始めるということで一緒にアムレーの街へ向かっているところだ。
村には冒険者ギルドがなくクエストも受けることができないということで冒険者ギルドのある街へと移動するという。しばらくはアムレーの街で活動するそうだ。
「この辺りではどういったクエストがあるんですか?」
「そうですね。護衛や素材採取といったところでしょうか。辺境になると魔物も多いですし」
ユミル村は言わずもがな、アムレーも辺境伯領の中でも辺境なので魔物もそれなりに多い。
この馬車もときどき魔物の群れに遭遇しているようだがシルバーウルフの群れ程度であれば蹴散らして進んでいるので本格的な戦闘に入る気配はない。
その辺りは深く考えないようにしよう。
「ちょっとちょっと、ブランさん」
アムレーの街に着いたところでマーガレットに声を掛けられた。
どうやら二人だけで話をしたいようなのでリセルさんや村長さんとは離れたところへと移動する。
「なんでしょうか?」
「ブランさんから見てリセルのこと、どう思いますか?」
「どう、とは?」
「異性として興味はありますか、って意味です」
つまり女性としてどう思うかってことだよな。
俺は訝しげにこちらを見ているリセルさんにチラッと視線を送る。
長い艶々の黒髪を今は後ろでポニーテールにして括っている。初めてあったときは血まみれでわからなかったが冒険者をしているのに色白の大変な美人さんだ。
「そうですね。リセルさんが彼女か奥さんだったら鼻が高いでしょうね」
「そうですか。ふふっ」
マーガレットはそう微笑むと「お時間を取りました」と言ってリセルさんのところへと戻っていった。
いったいなんだろうか?
リセルさんたちは冒険者ギルドに向かうということで俺たちとはここで別れることになった。
一方の俺はまずは商業ギルドへと向かう。
師匠の口座に10万ゼニ―を送金して今月の仕送りは完了だ。
そして、俺は自分の口座にこれまで稼いだ分を預けておいた。思いの他仕事があったので村長さんに売り上げを補填してもらう必要もなく今のところ経営は順調だ。
俺は作った商品を卸しているこの街の商店を見にいくことにした。
街でどういった商品が売れているのか、どういった需要がありそうかのリサーチにもなるだろう。
客としてその商店、いろいろな物を売っている雑貨屋とか道具屋というのだろうか。そのお店に入った。
店の中は一般のお客さんと冒険者の格好をした人が半々といったところだ。
俺が作っている製品は余剰分を村長さんが定期的に卸してくれていて売り行きも好調だと聞いている。
ざっと店の中を見て回ったが俺が卸した商品は品切れとなっているものも多いようだ。
「そこを何とかしていただけませんか!」
このお店のカウンターから一際大きな声が聞こえたので視線を向けると若い男とカウンターの中にいるお店のおじさんとが何やらやり取りしている。
揉めているんだろうか?
「そうは言われましてもこちらにも事情がありまして……」
若い男は若干興奮気味で、一方おじさんは困惑している。
ちょうどそのとき、村長さんが商品の納入のためにこの店にやってきた。
店のおじさんはちょうどよかったという様子で表情が晴れる。
そして村長さんと何やら話を始めた。
店のおじさんの話を聞いて村長さんは「う~ん」と厳しい表情を浮かべている。
そしてふと俺と目が合って俺の存在に気付くとちょいちょいと手招きされた。
「村長さん、どうされました?」
「この若い方は旅の行商人だそうなんだがどうやらきみがこの店に卸している商品を扱いたいそうなんだ」
「俺の商品を?」
若い男に視線を送ると爛々とした目で見られた。
あっ、これは断れないヤツだ……。
予想どおり以前と同様、自分にも商品を卸して欲しいという話だった。
どうやらそれなりの目利きらしく俺の商品を見た瞬間、コレを扱いたいと全身が震えたらしい。
いや~、まいったな~、そこまで言われると照れてしまうな~。
よしっ、くるしゅうない。
いくらでも持っていくといい。
と言いたいところだが俺はユミル村が招聘した錬金術師なので余剰分を出すという形で出荷量はそこまで多くは出せないということを条件にいくらか商品を卸すことを承諾した。元々行商ではそこまで大量の商品を取り扱うことはできないため、それでいいという話だった。
むしろ数は少なくてもいいので品質というか価値が高いもの、できれば有効期間が長いものがいいということだった。
ここでも俺の工房名を聞かれることになった。
いつものように決まっていないと言って俺の名前を言うと若い男から「では、取り敢えずブラン工房という名前で扱わせていただきます」と言われたのでハタと気付く。
(それでいいじゃね~か)
こうしてこの日、俺の錬金工房はなし崩し的にブラン工房という名前に決まった。




