17 魔女の宝
「……『魔女』ってあの『魔女』ですか?」
「はい、このレグナム王国で伝説とされるあの『魔女』です」
通常、他の国では魔女とは女性の魔法使いを指す一般的な名詞なのだろう。
しかし、俺たちが住むこの国、レグナム王国では『魔女』という言葉はある特定の人物のみを意味する。
「その『魔女』の宝……ですか?」
「ええ、何か心当たりがあればと思ったのですが……」
俺もこの前この村に来たばかりということもあるがそんな話は聞いたこともない。
この国で『魔女』にまつわる伝説や伝承はいくつか聞いたことはあるが宝がどうとかいう話は聞いたことがなかった。
「その表情だとご存じないみたいですね。わたしたちも噂というレベルでしか耳にしたことはないのですが……」
「ええ、初めて聞きましたね。この村に来たばかりということもありますけど。宝とはいったいどういった物なのでしょうか?」
このレグナム王国の建国に貢献したと言われるのが『魔女』だ。
むかしむかし、大昔。
この辺り一帯はまだ国とも言えない小さな部族同士が争い、その勢力を競っていた。
その中の一つ、その後、レグナム王国を建国する初代国王陛下が出会った一人の魔法使いの女性が後に『魔女』と呼ばれることになる。
伝説では初代国王陛下が語った理想にその魔法使いが共感して力を貸し、ついに統一国家を建国したという話になっている。
その功績によりその魔法使いはこの国で唯一『魔女』を名乗ることが許される存在となり、以後、どんなに腕の良い魔法使いであっても『魔女』と名乗ることは許されなかった。
そんな古の魔法使いが残した宝とはいったいどんなものだろうか。
俺でなくてもこの国に住む者なら気にならないということはないだろう。
「冒険者である身としてはそういった話を聞くと探してみたくなるのが性というものでして、他の用事に合わせて宝探しをしていたのです。しかし、まさかあんな目に遭うとは思いませんでしたが……」
リセルさんは力無く「ははは……」と乾いた笑い声を出した。
これはマズイな。
まだ精神面は完全に回復していないようだ。
「あっ、そうです。先日いただいた化粧水なんですけど……」
変な空気を察したのかマーガレットが突然別の話題を持ち出してきた。
以前にマーガレットから予約注文を受けていたお肌のお手入れセットだが、茨の王対応の準備が終わって直ぐに作って納品していたのだ。
話としてはしばらく使ってみて大変ご満足いただいたという話だったのだが俺としてはホッと安心することができた。
師匠直伝レシピで作った物がこれまでクレームを受けたものはないので大丈夫だろうとは思ったが、いかんせん男の俺では品質の良し悪しがピンとこないということもある。マーガレットの反応から流石の効能みたいだしこれからはこういった商品も出していったらいいのかもしれないな。
俺はせっかくなのでリセルさんやマーガレットから冒険者の視点でどんなものがあったらいいかという話を聞いてみた。
正直、これまであまり冒険者という人種と関わり合うことはなかったからな。
これからは街にもポーション以外のものを卸すこともあるだろうし今後は幅広く色々な商品を作ってみるのもいいかもしれない。
そんな話をしながらこの日の慰労会は過ぎていった。