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15 森狩り

 森狩りの決行日。


 この日、村は朝から慌ただしかった。

 討伐隊の面々は夜明け前から村の入り口に集合していた。


 この日は安息日ではなく普通の日であったが、村は全体が臨時の休日となった。

 討伐隊は自警団のメンバーの大部分が参加しており、そのメンバーがこぞって村の外に出ることになるため、村の防備が自然と手薄となる。そのため、元自警団のメンバーである自警団のOBを中心とした予備役メンバーが村の防備にあたる。この日は村の女性や子供たちもこの日は自宅で過ごすようにと通達が出されている。



「よし、出発だ」


 自警団のリーダーで、今回の実働部隊のリーダーにもなっているカインさんの言葉で夜明けとともに目的地へと向かう。


 茨の王がいた場所はこのユミル村の東にある森の奥。

 森の奥に大きな泉があり、リセルさんたちはそこで鉢合わせたそうだ。村の人たちも泉の場所はわかっているためわざわざリセルさんたちに案内してもらう必要もないということで森狩りには同行してもらっていない。




「これでいいですか?」


「あー、もうちょっと右かな」


「了解です」


 俺はといえば一応討伐隊のメンバーの中には入ってはいるがいわゆる本部待機というポジションだ。森の入り口というか森のすぐ外にテントを張ってここに討伐隊の臨時本部が設置された。ここは救護所も兼ねていて俺が作ったポーションも用意されている。


 討伐隊は、俺のような待機組と実際に森の中に入って探索及び討伐をする実働部隊とに分かれる。

 その実働部隊の面々にもそれぞれポーションを持たせてはいるが森の中の魔物は茨の王だけではない。他の魔物と遭遇して戦闘になることもあるだろうし、そうなれば怪我だけではなく状態異常にも備える必要がある。

 そんなわけでこうして拠点が設けられている。


 俺は同じく本部待機となっている他のメンバーとともにテント張りの作業をした。

 学院では生徒は基本的に貴族の子女ばかりだったので他人とこういった雑用的な作業をする機会はなかったのでとても新鮮だ。


 テントを張り終えたら村から運んできたイスや簡易机を並べて臨時の本部や休憩場所を作って俺たち待機組の作業は終了だ。


 実働部隊はまず、リセルさんが遭遇したという森の奥の泉に全員で向かい、そこからグループごとに散らばって茨の王を捜索するという予定になっている。各グループには俺が作った竜の鱗の張られた大盾が最低でも1つは配備されているのでどのグループが当たりを引いても最低限度の防備はできるだろう。


 討伐隊の実働部隊の面々が森の中へと入っていくと本部待機となっている俺たちは基本暇だ。

 今日は、いつも俺の近くにいるガオンも手柄を求めて実働部隊の一員として勇んで森の中へと入っていった。

 自警団の若手は基本的に実働部隊に入っていて、若手の中では俺の護衛役を自称しているヘンリーくらいが自ら希望して本部待機となっている。




「ブランくんも森に入りたかったんじゃないかい」


 俺が暇そうにしていると村長さんからそう声を掛けられた。


 今回の討伐隊は名目上の最高責任者を村長さんが、実働部隊のリーダーを自警団の団長であるカインさんが務めている。村長さんも自警団のOBということでいざとなれば戦うらしいが、村長さんはお腹に脂肪を蓄えた中太りの中年なので正直今の姿を見る限り、戦力になるようには思えない。


「いえっ、俺は戦闘なんてまともにできませんからね。学院では授業で少し習ったくらいで……」


「はっはっは。この村にいる連中もみんな同じだよ。そこらの冒険者には負けないと息巻いてはいても所詮は素人だからね。だからこそ、強い魔物には数で勝負しないといけないんだ」


「そんなものですかね……」


 少なくとも少人数で地竜を狩ってくるケインさんクラスはただの素人とは思えなかったが、俺たちはこうして話をしながらのんびりと戦果が届くのを待った。



 太陽が空の真ん中に来る頃、森の中からバラバラと森に入っていた実働部隊の面々が引き揚げてきた。

 事前の予定でお昼には順次本部に戻って昼休憩を挟むことになっている。


 

「泉には目的の魔物はいなかったようだ」


 村長さんが昼休憩で戻って来た実動部隊のメンバーから話を聞いて俺にも教えてくれた。


「まあ、いつも同じところにいるわけではないでしょうからね」


 実働部隊の面々は、森の中では茨の王以外の魔物や魔獣と遭遇したようで、彼らが戻ってくる度にそれらの肉や素材がお土産として本部に積み上がっていった。本部待機組でこうしたものを解体したり仕分けをするなどして事後処理をした。


 お昼が過ぎて再びぱらぱらと休憩のために本部に戻って来るグループが出始めたとき、突然森の中から「ピー」という甲高い笛の音が聞こえてきた。

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