12 準備
「ぐーるぐる、ぐーるぐる。今日はいつもよりよく回っております」
そんな言葉が思わず漏れるほどここ最近は一人で工房にこもっていることが多い。
ぶっちゃけ忙しい。
あれからポーション作りを中心にうちの工房はフル稼働。
村の備蓄用だけでなく村の外に出る村人が常に1、2本携帯できるようにと作り続けている。
素材が足りなくなったときには自警団の面子に山に入ってもらって必要となる素材を採ってきてもらったりもした。
今回用意する中心となるのは上級ポーションということでそれを作るにはかなりの魔力が必要となる。
そのため、今回は上級ポーションも2種類用意した。
1つは大魔草を素材に使うレシピによるもの。
大量に作る必要があって1つ1つにそこまで魔力を使えず、魔力の節約をしなければならないのであればこのレシピだろう。
追加効果は期待できないが傷の回復だけが目的であれば何の問題もない。
このレシピに使う素材は事前の処理も単純なので作業時間も短縮できる。
まあ、この村の野郎たちに普通に使うのであれば本来こっちで十分だろう。
もう1つはこれまで俺が作っていた師匠直伝の傷跡が残りにくくお肌の色艶も良くなるという効果付きのもの。これは時間と魔力の都合上、サブ扱いだ。ただ数は少ないもののある程度の数は作っておくことにした。
村の女性たちが被害に遭うこともあるかもしれないし、男性であっても被害状況によってはこちらを使った方が良いだろう。
「ふうっ」
午前中の仕事を終えて昼休みになるとお昼を食べに食堂に行くことにした。
食堂にはちらほらと人がいたがその端っこにリセルさんとマーガレットがいた。
同じ席には向かい合って座っている自警団のメンバーでカインさんのお仲間の見知った男性が一緒にいた。
プライベートで会っているにしては年齢が不釣り合いだと思ったが直ぐに男性の方が席を立った。
俺が訝しく思って見ていると俺の視線に気付いたリセルさんと目が合った。
無視するのもどうかと思ったので俺の方から声を掛ける。
「こんにちは、今日はお食事ですか?」
「ブランさん、こんにちは。いえ、ちょっと話を聞かせて欲しいということで午前中それに応じていたところです」
「話?」
「ええ、『茨の王』に遭遇したときの話を聞きたいと」
リセルさんによると自警団で「茨の王」(仮称)に対応するために当事者であるリセルさんたちからいろいろと聞き取りがされていたということだ。
どこで遭遇したのか、どんな外見か、どういった動きをしてどんな攻撃をしてくるのかということを確認されたらしい。
確かにこの村でも大昔に1度討伐したことがあるらしいというだけではまともな情報が残っているとは思えない。そもそも特殊個体であればそのときの魔物と全く同じとは限らない。
「それにしてもそんな魔物がこの村の近くにいるというのは怖いですね」
「それを言うならそもそもこの辺りの魔物は基本的に強いものばかりですからね。最低でも魔物はCランクですし」
さすがは現役の冒険者。
その異常性に当然気付くよな。
俺はいい機会だからちょっと気になっていたことを聞いてみることにした。
「お二人は冒険者なんですよね? ぶしつけですけど冒険者ランクはどのくらいなんですか? あっ、言いたくなければ言わなくても構いませんので」
「別に隠すようなことではありません。むしろランクに応じた指名依頼を受けることもあるわけですし。わたしはAランクで、マーガレットはBランクですね」
「お二人とも高ランクの冒険者だったんですね」
冒険者はCランクで一人前扱いだ。
AランクやBランクは高ランクという扱いをされる。しかも二人はかなり若い。相当な手練れということだろう。
そんな二人をして「茨の王」は大怪我をさせたのだ。
生半可な対応では村の人たちにもかなりの損害が出るかもしれない。
そんな気掛かりを抱きつつもせっかくということでこの日は二人と昼食をご一緒させてもらうことにした。
さっきまで聞き取りに応じていたという話だったので同じような話はしたくないだろうからその話は敢えてしなかった。
しかし、他の話をしながらも俺の頭の中ではどうしてもそのことがいつまでも燻ってしまっていた。
二人との昼食を終えて食堂から出る。
二人と別れて工房に戻る道中も何かいい方法がないかと首を傾げながら歩いていると俺はとある一つのことをひらめいた。