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5 餞別

 学院の卒業式があった日の翌日。


 俺の家にルークが遊びに来た。


 いや、遊びに来たというのは語弊があるな。


 ユミル村への出発直前、普通なら準備で忙しいタイミングでルークがそんなことをするはずがない。



「アルメリヒさん、少しブランをお借りします」


「ああ、馬車くるまに気をつけるんじゃよ」


 ルークがそう言って俺を自宅から連れ出した。


 俺の自宅は王都の外れにある師匠の自宅兼工房だ。






「なあ、家じゃ話しづらいことか?」


「そうだな」


 うちの周りは王都の外れとはいえこのレグナム王国は為政者がしっかりしているからか治安はいい。


 周りには立派とは言えないまでもきちんとした石造りの家々が立ち並びいわば下町といった風情で行き交う人たちもきちんとした身なりをしている。


 ルークの家は王都の中心近くにある商家だ。


 この国でもそこそこ大きな商家で兄がいるということで家は継げないらしい。

 それで騎士になりたいと言って学院に入学したって話だった。


 ルークは背が俺よりも高く180センチくらいはあるだろう。

 筋肉質ながらもそこまでいかつくない、いわゆる細マッチョな体格をしている。

 騎士団に入団前ということでその赤毛も短く刈り込まれている。


 俺たちは近くの公園に行き、そこにあるベンチに揃って腰を下ろした。


「話ってのはこいつをお前に渡したかったんだ」


 ルークがそう切り出し、手に持っていた紙袋を俺に差し出した。


「それなら家でも良かったんじゃないか?」


「まあ、それは中を見てから言えよ」


「なんだよ、そんなに勿体ぶって」


 俺は何気なく紙袋の中を覗いて中の物を確認するとピタリと動きを止めた。


「おっ、お前、これって……」


 俺は動揺を隠し切れない。


 まったく俺の親友は何て危険な物を持ってくるんだ。


「餞別だよ。田舎の村に行くならいい武器になると思ってな」


 ルークから渡された紙袋に入っていたのは王都でも人気の踊り子さんの姿が描かれた艶本だ。


 ここでいう艶本は男女の営みが描かれた様な過激なものではない。


 それは裏本と呼ばれる物で全くの別物だ。


 その艶本と裏本とは下半身の露出の有無や程度、男女の営みが描かれているかどうかで区別される。


 ルークに渡されたものは『本』とはいっても数枚の紙を纏められて一つの冊子となっている程度の小冊子で、その中に扇情的な姿をした踊り子さんの肢体が描かれている。


 本は貴重だ。


 それがこういった小冊子のようなものであってもだ。


 最近は印刷技術というものの進歩で大昔のように手書きで本を書き写すということはない。


 しかし、それでも安価に大量にというわけにはいかない。


 印刷資源は国力の向上につながる産業振興や、技術の発展をもたらすよう、基本的には実用書向けに振り分けられる。


 そのため娯楽分野の印刷物はどうしても後回しになり、多く出回ることはなく、あっても高価だ。


 そんな物を買うことができるのは貴族、あるいは羽振りのいい商人など、市民であっても上級クラスぐらいだろう。


 そんな事情もあって下々の者がこういったものを入手するとしたら1枚売りのブロマイドサイズが精々といったところだ。


 ルークの話では、これは騎士科の友人にもらった物らしい。


 騎士科には貴族の子弟で家を継げない連中が多い。


 確かにそいつらならこういった物を買うこともできるだろう。


 そんな連中がこぞって騎士団に入ることになったものの騎士団の寄宿舎は検査が厳しいらしい。


 そういうことで卒業間際にお下がりがルークに押し付けられたって寸法だ。


「しかし何でこれを俺に?」


「お前が行くのは田舎の村だろ? やっぱり田舎の村は余所者に閉鎖的らしいからな」


 ルークが特に心配してくれたのは、行く先で俺が同年代の連中と上手くやっていけるかということのようだ。


 どうやら学院の錬金科で俺がルーク以外の男友達がいなかったのを心配してくれているようだ。


 俺はそこまでコミュ障に見られていたのか……。


 いやっ、俺はまだ本気を出していなかっただけだからな。


 ホントだぞっ!


 ルークの見立てでは同年代の異性には俺の錬金術師という職業(肩書)もあってかなり打算的(好意的)に見てもらえるだろうということだ。

 その一方で、男連中からはそんな女の子の視線を集める俺への風当たりは強くなるんじゃないかと心配してくれているらしい。

 

 確かにそれは学院においてエレンとの件で身をもって感じたことではある。


 危なかったな。


 危うくまた同じ轍を踏むところだったか。




「それでこいつの出番だ」


 田舎では下々向けのブロマイドや中古の古い艶本であっても中々流通していないらしく、あっても田舎では買うことが難しいそうだ。


 この『難しい』というのは物理的にというよりも、環境的に、まあ端的に言えば周囲の目があって難しいという意味だ。

 確かに顔見知りばかりの田舎の商店でそんな物を買ったら「○○のお子さん、アレを買ったらしいわよ」「まあっ、この前までおしめをしていたのにもうそんな歳になったのね。時間が経つのは早いわ」ってカントリーマダムたちの井戸端会議で晒し上げされてしまうからな。


 そしてその噂が広がり、同年代の異性にはキモがられてしまうというわけだ。


 狭い村社会でそんなことになれば『人生オワタ』になりかねない


 だから田舎のシャイボーイどもは内心欲しくても手を出すことができずこういった物に飢えているというのがルークの見立てだ。





「お前、その分析力があるなら家を継げなくても最初から商人になれるんじゃないか?」


「いや、俺なんてまだまだだよ」


 ふむ。


 商売はそれだけ難しいということか。


 しかし、王都で田舎の若者でも手が出しやすい商品を仕入れて、陰でこっそり高く売るっていう商売もできるな。


 まさに錬金術!


「こいつを融通すれば多少はお前への対応も変わると思うんだ」


 なるほど、艶本エロによって生まれる男と男の熱い友情というわけですな。


 確かに艶本の恩義を忘れることはおとことしてあるまじきことだからな。


 こうして俺はありがたくも親友から餞別をもらうことになった。


 あと、姫様からは短剣を、エレンからは魔法具マジックアイテムのネックレスを餞別でもらった。


 持つべきものは友人ということだ。

【修正しました】


 ルークの髪の色が間違っていたのでその辺りを修正(11/28 18:00)

 その他細かいところを修正(11/28 18:10)

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