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11 予約注文

 この前の緊急招集の日から村は『茨の王』(仮称)対策のための準備を始めることになった。


 錬金術師としての俺の第一の仕事はポーションを準備することだ。


 以前山に行って採取した素材がまだたくさんあるのでそれらを原料として今日は朝から錬金釜をフル活用して生産中だ。

 今回、特に力を入れて作ることになったのは上級ポーションだ。

 リセルさんの怪我を上手く治療できたのもこれがあったからこそだ。

 それだけ怪我の程度は深刻だった。




「ぐーるぐる、ぐーるぐる」


 俺が錬金釜を回しているとお店の方から「カランコロン」という音が聞こえた。


 誰か来たようだ。


 まあ、だいたいお客さんなんだが、ときどきガオンや他の若い連中がダベリに来ることもある。


 俺は工房から「ちょっとお待ちくださ~い」と大きな声でそう声を掛けた


 錬金術の行使中に錬金釜から側を離れることはできれば避けたい。


 辺境の村の小さな工房だからこそできる対応だと言えるだろう。






「大変お待たせしました」


 錬金釜での作業がひと段落したところで俺は急いでお店のカウンターへと出て来た。


「お忙しいのに申し訳ありません」


 お店にやってきていたのはマーガレットだった。


「いえ、今日はお一人ですか?」


「はい、ちょっとお伺いしたいことがありまして」


 マーガレットは真剣な表情でそう言った。


「なんでしょう?」


「先日、リセルに使っていただいた上級ポーション。何か特殊な効果が付与されていましたか?」


「特殊な効果?」


「ええ、最初に傷が残りにくいとは聞いていましたがそれ以上の何かがあるのではないかと……」


 ふむ。


 そこに気が付くとはさすがは女性ということか。


 実は俺が作る師匠直伝レシピによる上級ポーションには()()()特殊効果がついているのだ。


「……わかりました?」


 俺がニヤリと笑みを浮かべてそう尋ねるとマーガレットは身を乗り出すようにして言った。


「当たり前ですっ! リセルの顔も身体の肌艶も怪我をする前よりも綺麗になってるんですよ! そんなの気が付かないわけないじゃないですかっ!」


 そう。


 師匠直伝レシピの追加効果は肌艶を良くするという、ぶっちゃけ男性冒険者にとっては必要なのかと思わなくもない特殊効果があるのだ。


 最初は俺も師匠に「そんなの必要なんですか?」と聞いたらシコタマ()()された。


『お前もまだまだガキだね。これは身体だけじゃなく心も治せるのさ』と言われたことは今でもはっきりと覚えている。


 この言葉の意味は今ならわかる。


 もしも単に血を止め、傷口をふさぐため効果しかなければそこには傷跡が残ってしまうだろう。

 魔法薬であるポーションとはいえ、必ずしも傷口が綺麗に治るとは限らない。

 ポーションは、基本的には魔法薬ではない通常の薬を使ったうえで時間を掛けて治すその時間を短縮するものと思ってもらえれば理解しやすいのではないだろうか。

 つまり、本来残るほどの傷であればポーションを使っても基本傷跡は残るということだ。

 それは年頃の女性にとっては耐え難いことだろう。

 師匠のレシピは第一にこの傷跡が残りにくいという効能がある。

 しかし、マイナスを0にするだけというのではやはり物足りない。さらにプラスにするという効果もあるというのがこの師匠のレシピだ。


「だったらその、ここには何かお肌のお手入れにいいものがあるんじゃないかと……」


 おお、やっぱりそうなるよね。


 確かに師匠はそういったレシピもいっぱい持っていたりする。


 俺もある程度のレシピは受け継いでいるし作ることもできる。


 しかし、この村の女性たちはそこまで気にしてなさそうだったので取り敢えずは後回しになっていた。


「すみませんが、この村に来てまだ作ってないので在庫はないんです。素材の取り寄せもしなければなりませんし。それに今はちょっと立て込んでいるので少し後になりますけどいいですか?」


「はい、それで構いません。是非よろしくお願いします!」


 こうしてマーガレットから予約注文という形で受注することになった。

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