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10 茨の王

「兄貴、緊急の招集です」


 リセルとマーガレットが工房に来たその日。


 夕方の店じまいをする時間にガオンがやってくるやそう告げた。


「招集?」


「ええ、自警団のメンバー全員参加ということです。場所はいつもの食堂ですので」


 ガオンはそう早口で言い終わると他のメンバーにも知らせに行くとかで直ぐに駆け出していった。


 緊急の招集とは穏やかではない。


 俺は手早く店じまいを終えると気持ち急いで集合場所である宿の食堂へと向かった。



「大体揃ったか」


 自警団の団長であり肉屋の店主であるカインがそう言って店の中を見回した。


 食堂の中には以前の集会よりも多くのメンバーが集まっている。


「今日来てもらったのは他でもねぇ。森でどうやらやっかいな奴が出たらしい」


 集まったメンバーたちはゴクリと息を呑む。


 大体予想できてはいたが昨日この村に助けを求めてきたリセルさんとマーガレットの二人はこの村の近くに森に入り、そこである魔物と遭遇したという話だった。


「姿形はアルラウネやマンイーターのような植人のようだが、その攻撃力はけた違いって話だ。身体中が棘に覆われ、その棘を武器にし、時には飛ばしてくるらしい」


 なるほど。


 昨日、リセルさんが身体中をズタズタにされ瀕死の状態になっていたのはその魔物の攻撃を受けたからなのだろう。


 しかし、そんな魔物について俺は聞いたことがない。


 勿論、俺は冒険者でもないし全ての魔物を知っているわけではないが、そんな危ない魔物に心当たりはなかった。


 自警団の他のメンバーの様子を見てもあまりピンときている様子はない。


 俺だけじゃなく、少し変わったこの村の住人にとってもイレギュラーな話のようだ。




「……いばらの王かもしれんの」


 食堂の隅にいた一人の初老の男性がそう呟いた。


 その呟きに周りの団員の視線が集まる。


 今日の集会は現役の自警団のメンバーだけでなく、自警団のOBも参加可能な集会となっている。現役を退いて久しい大先輩方も興味本位でチラホラと参加しているようだ。


「茨の王?」


「ああ、もう何十年前になるかの。わしがまだ現役団員だったころやり合ったことがある。そのときはこの村でもかなりの被害が出た。何とか倒すことはできたがあれは特殊個体だろうという話になった。特殊個体ということでそのときに付けられた呼び名じゃ」


「それが茨の王……」


 この日決まったことは、今後自警団で茨の王対策をして、いつ遭遇してもいいように準備をするということだ。

 このとき、カインさんから内々にポーション在庫の積み増しの話を受けた。後で正式な村から依頼としてあるだろうということで取り急ぎ心づもりはしておいて欲しいということだった。


 しばらくはこの村全体で警戒態勢が敷かれることになり、これまでのどかだったこの辺境の村の空気が一変することになった。

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