9 お買い上げ
「ごめん下さい」
翌日、工房でのんびりと店番をしていると入り口から昨日大怪我を負っていた長い黒髪の女性が入ってきた。その後ろには一緒にいた少女もついてきている。
「いらっしゃいませ」
俺は普段と同じお客様への対応としてカウンターからそう声を掛けた。
「昨日はありがとうございました。おかげ様で助かりました」
女性はそう言って俺に頭を下げた。
「いえいえ、こちらも商売ですので」
「勿論そうでしょうが、あの品質の上級ポーションはなかなかお目にかかったことがありません。失礼ですがあなたがお作りになられたのでしょうか?」
「ええ、この工房で私が作ったものです」
俺の言葉に目の前の女性だけなく後ろの少女も俺にじっと視線を送る。
「お若いのにかなり腕の良い錬金術師なのですね。今日は昨日いただいたポーションの代金の支払いと、もしまだ在庫がありましたらいくつか買えないかと思いまして」
「ありがとうございます。上級ポーションでしたら在庫は1本あります。中級以下でしたらある程度の在庫はありますよ」
「本当ですか! では上級ポーション1本とあと中級・初級をそれぞれ5本ずついただけませんか」
「ありがとうございます。では昨日の分を含めて代金をいただきますね」
そう言って俺は合計金額を計算して請求した。
「そんなものですか? もう少しするかと思いましたが?」
「いえ、普通の相場のものだと思いますけど」
まあ、辺境では多少値段が高くなることはあるし、非常時には値段を釣り上げる輩もいるからそう感じるだけだろう。
特に今回は主要な材料は山から自分で調達してきたものなので村の人たちに護衛費用を支払っても普通よりも素材の仕入れにコストはかかっていない。そのため、普通の値段で売っても儲けが大きいのだ。
「瓶に工房名が入っていませんね。店主さん、よかったらこのお店かあなたのお名前を教えていただけませんか?」
そういえば開店してからお店の名前を決めるのを忘れていたのを今さら思い出した。基本的に村人だけ相手にしていれば別にいらないから今の今まですっかり忘れていた。
「この前開店したばかりで工房名はまだ決まっていないんです。私の名前はブランといいます。お見知りおきを」
「ご丁寧に申し訳ありません。わたしはリセルと申します。冒険者をしています。それから後ろにいる少女はマーガレットといいます」
「改めまして昨日はありがとうございました、マーガレットと申します。リセルと一緒に冒険者をしています」
リセルさんに続いて後ろで俺たちの会話を聞いていた少女がそう言って俺に頭を下げた。
明るい茶色の髪を左右で結っているいわゆるツインテールと呼ばれる髪型だ。
髪の長さは結っているので正確なところはわからないが、ほどけば背中にまでくるくらいの長さになるだろう。
「いえ、こちらこそ。お二人に何もないようで良かったです」
その後しばらく雑談をしたが、二人は昨日、森で魔物に襲われて大怪我を負ったということだった。あと数日は休暇を兼ねてこの村の宿に滞在するという話だった。
「それにしても宿の料理は美味しかったですね。村の人たちもかなりいらっしゃって賑わっていましたし」
「そうですね。私も一人暮らしなのでつい食堂で済ませてしまうことが多いですね」
リセルさんの言葉に俺がそう返した。
「ブランさんはお一人暮らし、といいますか独身なんですか?」
「ええ、まだ16歳ですし」
「お付き合いされている方もいらっしゃらないと?」
「残念ながら」
「それはそれは……」
マーガレットさんはそう呟くと何やら考え込んでしまった。
いったいなんだろうか?
こうして二人と雑談をしていると外から村人のお客さんが入ってきた。
「商売の邪魔をしてはいけませんね。ではわたしたちはこれで」
リセルさんはそう言ってマーガレットさんと一緒に店を出ていった。




