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8 旅人

「どうしましたか? どなたかが怪我を?」


 突如工房に飛び込んできた村人に俺は尋ねた。


「ああ、とにかくひどい怪我で初級ポーションではとても追いつかない。とにかくできる限り性能の高いやつを頼む!」


「であれば私が行きましょう! 場所はどこですか?」


 俺はありったけのポーションを持って村人に案内されて道を急いだ。


 道中話を聞くと、村の外から来た旅人が血まみれで助けを求めて来たという話だ。


 村の入り口には一応見張り小屋みたいなものがあって自警団のメンバーが交代で見張りをしている。その小屋に初級ポーションの備蓄があったのでそれは使ったらしいが完治には程遠いひどい怪我とのことだ。



「おおっ、来たぞ!」


「早くっ、こっちだ!」


 村の入り口には既に村人が何人も集まっていて人垣ができていた。


 俺が近づくとその人垣が割れて地面に横たわる女性とそのそばで必死になって介抱している俺と同じくらいの年齢くらいの少女の姿があった。



「うっ!」


 俺は目の前の光景に一瞬怯んだ。

 

 地面に横たわる女性は長い黒髪の人であることはわかったが、俺がわかったのはそれだけだ。


 顔は幾重にも切ったような血の線ができ、ズタズタになってしまっている。


 身体の方へと目を向ければ、着ている革の鎧だろうか。


 恐らくこの女性の血だと思うが、その血にまみれ、赤黒く変色してしまっている。

 

「怪我の場所はどこですかっ?」


 血だまりでぱっと見判断できない。


 ここまでの怪我であれば上級ポーションを使うことは確定であるとしてもできるだけ一番ひどい患部にかけて使いたいところだ。


「ここです。このわき腹の……」


 そばにしゃがみ込んで介抱していた少女がそう言ってその場所を指差した。

 

 俺は間髪入れずにさっき作ったばかりの上級ポーションを患部へと振りかけた。

 

 すると横たわる女性の身体をぼんやりとした赤い光が包み込んだ。


 それをそばにいる少女と周りにいる村人たちが固唾を飲んで見守っている。


 見る限り、一番ひどい部分は上級ポーションでふさがり、その周りの怪我もある程度は回復した。


 しかし、顔の怪我は血こそ止まったものの、赤い線が残ったままで痛ましい状態だった。


 こういう緊急事態のケースでは、1本分の上級ポーションの料金については後で相場の金額で請求することができる。


 しかし、窮地を脱した今であれば事前に協議が必要だ。


「まだ上級ポーションはありますが必要ですか? 何と言いますか、その、顔に傷が残るといけないので」


「お心遣い痛み入ります。ただ、顔の傷もかなり深いようですので、ポーションを使っても完治させることは難しいのではないかと」


 そばの少女が俯いてそう答えた。


 件の女性はまだ意識が戻っていないようで横になったままだ。


「私の上級ポーションは傷が残りにくい性能がありまして。よろしければ試してみられませんか? ご満足いただけなければ料金は結構ですよ」


「本当ですか! それなら是非試させて下さい。このリセルも嫁入り前の身体ですのでできれば傷を残させたくないのです」


 当事者の了解をいただいたので、俺は追加で上級ポーションを提供した。


 今度は、横たわった女性、どうやらリセルさんという名前のようだが、の顔に上級ポーションを振りかける。


 すると、赤黒くなっていた顔に残った線がすーっと消えていく。


 そして、その後には白く滑らかな陶器のような艶やかな肌が現れた。


「ああっ……ああっ!」


 少女はそう叫ぶとその瞳を潤ませ、涙を流した。


「ううっ……ひめさま……」



(ひめさま?)



 リセルさんの口からくぐもった声が漏れ,ゆっくりとその瞳が開かれた。


「リセルっ! よかった!」


 俺の疑問を他所に少女は意識を取り戻したリセルさんに抱き着いた。

 

 それを見ていた周りの村人たちからは安堵の声と歓声が上がった。





「兄貴、お疲れ様です」


 もうしばらくたってリセルさんが立ち上がって動けるようになると野次馬たちも三々五々散らばっていった。その野次馬の中に紛れていたガオンからそう声を掛けられ、他の村人たちからも次々に声を掛けられた。


 その一方、旅人の少女たちは村の世話焼き女性マダムたちに連れられて恐らく宿にだろう、案内されていった。

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