7 上級ポーション
工房に戻ってから俺は昼食も食べずにポーション作りを始めた。
採取したばかりの薬強草を丁寧に水洗いして汚れを落とす。
そうして上級ポーションの要となる素材の準備ができた。
あとの素材だが蒸留水は初級ポーションと同じとして、それ以外に何を加えるかというのは錬金術師によって違う。
ある特定のアイテム作るとしても必ずしも皆が同じレシピであるとは限らない。
勿論、スタンダードとされるレシピもあるにはあるが有名な錬金術師になればなるほど、オリジナルのレシピであることが多い。
レシピが違えば、同じポーションといえども効果に違いが出る。
消費期限が長いもの、少量で効果が出るもの、回復量が上がるもの、それぞれのレシピによってブランドごとに特徴を出している。
俺のレシピは師匠直伝のレシピなのだが、加える素材は太陽花と朝露草だ。
ここでこの2つの素材については下処理が必要となる。
太陽花は陽に当てて乾燥させたものを、朝露草は熱湯に入れてしばらく煮て不要な成分を排出したものを使う。
薬強草と蒸留水に加えて処理済みの太陽花と朝露草を錬金釜に入れる。
そしていつものように錬金釜を回していく。
上級ポーションには多くの魔力が必要となる。
そのため、多くの錬金術師はレシピに大魔草を入れるのが定番だという。
しかし、師匠の教えでは、確かに大魔草を使うと自分の使う魔力の節約になる一方で大魔草の他の成分の影響で追加効果を阻害してしまいやすいそうだ。
そのため、より効果の高い上級ポーションを作ろうと思うのであればできる限り大魔草は使わない方が良いということを教わった。
幸い俺は魔力が多いようで大魔草を使わなくても錬金できるので攻めのレシピを使いやすいのだ。
「ぐ~るぐる、ぐ~るぐる」
いつもより多く回しております。
錬金釜を回しながら魔力の量を調整する。
錬金釜は単に魔力を加えれば良いというものではない。
どのタイミングで魔力を多く加えるかにより、品質は変わってくる。
下手な操作をしてしまえばレシピ通りでも作成に失敗することもある。
一般に出回っているレシピには必要な素材は書いてあっても加える魔力の量やタイミングについて書いてあるものは少ない。
どうしても感覚的なところが多くなってしまうので、文字では伝えにくいとされているが俺はいろいろな思惑があるのではないかと思っている。
とにもかくにも、錬金術の道は一日にして成らずだ。
良い師匠について教わり、地道に訓練が必要になる。
さて、そろそろできただろうか。
そう思ったとき、錬金釜の中から眩い光が溢れてきた。
完成したようだ。
以前の『癒され草』事件から、今度の薬強草も偽物ではないかという心配が多少なりともあったので、きちんと完成したことでまずは一安心だ。
「さてさて、どんな具合かな?」
俺は製品抽出口から出来立ての上級ポーションをガラスのビーカーに移した。
赤色の液体がビーカーを満たしていく。
上級ポーションはこの赤色が特徴といっていい。
ちなみに初級は青色、中級は黄色だ。
もっとも色を付けて誤魔化している偽物もないことはないので出所が確かなものをきちんとしたお店で買うのが望ましい。
念のため『解析』により間違いなく上級ポーションの品質があることを確認すると瓶に詰めて完成だ。
素材の鮮度が抜群だったので今日のはかなり高い品質になった。
とはいえ、上級ポーションなんてなかなか使う機会はないだろうけどな。
商売としてはその辺りがネックになるが職人としてはやり遂げた感が高い。
うん、満足だ。
――そう思った矢先
「ポーションをっ、ポーションをっ、とにかく品質の高いやつをくれっ!」
血相を変えた村人が工房に駆け込んできた。




