6 素材事情
俺は大魔草の群生地の周りを歩き回り、他に何か錬金素材となりそうなものがないかを調べた。
「これは……」
日当たりの良い場所に生えているのは太陽花だ。
他にも工房の敷地に生えていた朝露草もある。
しかし、俺の目を引き付けたのはある薬草だった。
「薬強草がある……」
上級ポーションの材料となる薬強草。
それがここには生い茂っている。
確かに薬強草は魔力の濃い土地に生えていると言われているがこれほどの数があるということはなかなかないだろう。
他の地域では、スポット的に生えている場所というのが認知されていて、そこに行って採取してもらうよう冒険者に依頼を出すということがあるということを学院では教えられている。
しかし、以前の『癒され草』のこともある。
ぬか喜びになりはしないかという危惧もなくはない。
まあ、薬強草の偽物というのは俺は聞いたことがないし、ここが魔力の濃い場所だということはこれまでのことからほぼ間違いないだろう。
とすればこの薬強草は本物である可能性が濃厚ではないだろうか。
勿論、しっかりと観察して確認はしている。
けれど実際に錬金術を使って上級ポーションを作ってみないことには確信が持てない。
実際に作ってみて早く確認したいという思いに駆られる。
そんな気持ちで俺は目の前に茂る薬強草を次々と採取していく。
正直、胸はドキドキしている。
状態はぱっと見るだけで色つやともに申し分がない。
生えている状態なので鮮度は当たり前だが抜群だ。
一刻も早く工房に戻ってこれで上級ポーションを作ってみたい!
恐らく錬金術師であれば誰もがそう思うだろう。
「兄貴、兄貴~~~」
「うおっ!」
ガオンに呼ばれて我に返った。俺は夢中で薬強草の他に錬金素材となりそうなものを手に持った麻袋に詰めていたが、流石にちょっと取り過ぎたかもしれない。
まあ、マジックバッグがあるから持って帰るのは大丈夫だが、直ぐにすべてを使いきれるわけではない。
ある程度の時間であれば状態保存の錬金術を使って保存可能だが、それにも限度がある。
採取直後の状態を保存できるのは、俺でも10日が限度だ。
他の錬金術師だと数日からせいぜい1週間程度と聞いている。
効果が切れた後でも重ね掛けはできなくもないが、2度目だと劣化はそれなりに進むので錬金素材はポーションほどではないがいいものはなかなか流通しない。
そのため、本当に品質のいい錬金素材というのは、なかなか入手するのが難しいのだ。
そういうことで採取はほどほどにして今日はもう帰るとしよう。
欲をかいてもいいことはないのは以前のことで実証済みだからな。
そもそもこの場所は逃げることはないのだ。
必要なときにまたここに採りにくるとしよう。
山を下りて村へと戻る。
背負子を背負ったキャロルと話をしながら村への道を歩く。
「そろそろ農繁期だからうちも忙しくて、だから今日はあたしだけが来たの」
「でも女の子の一人歩きは危ないだろ? 魔物だけじゃなく盗賊とかもいるだろうし」
「盗賊? いるのかな? 聞いたことがないけど……」
キャロルがそう言って近くにいた護衛のガオンとヘンリーに視線を送った。
俺たちの会話を聞いていた2人はそろって首を横に振った。
(えっ? 盗賊がいない? 辺境の警備もろくにできない村は盗賊に狙われるのがデフォルトでは?)
「盗賊じゃなくて山賊かもしれないけど……そういう話じゃないよな?」
「ははっ、この辺りじゃ、盗賊はおろか、村以外の他の連中もほとんどみないぞ。まあ、何もない村だからな、こんな所に来ても意味がないと思われてるんだろう」
殿をしていたボルドーさんが笑いながらそう声を掛けてきた。
「そうそう、ユミル村は平和なんだから!」
それに乗っかる能天気なキャロルの言葉に他のみんなもつられて笑みを浮かべる。
まあ、本当に害がないなら別にいいけど、やはりこの村は何かおかしいな。
俺はそう思いながらも特に何をするでもなく工房へと戻った。




