3 愚痴
――それから1時間
「ほんと~に、もう、教会の上層部はですね、腐ってるんですよ~」
「は~」
もう何度同じ話を聞いただろうか。
ソフィアさんから繰り返されたのは、この村に来ることになった人事についての愚痴だった。
教会という組織も一筋縄ではいかないようで、どこに配属されるかという人事はいろいろな思惑が絡むらしい。
で大変申し訳ない話だが、教会においてもこのユミル村、というかこの村を含めた辺境というのはやはり人気がないそうだ。
以前は無人で仕方なしという扱いをしていたそうだが、魔素を浄化するという仕事をする必要からある程度の人員を辺境に送る必要が生じて、誰を行かせるかということでやはり一悶着あったとの話だ。
ソフィアさんは若い女性でありながら司祭という地位にあることでヤッカミも含めていろいろとあり、どうやら今回の人事で割を食ったという顛末のようだ。
「は~、わたしにもコネがあったらな~」
「コネ、ですか?」
「そ~ですよ、世の中コネなのです。貴族の関係者とかだったらこんな、おっと失礼、意に反した場所に飛ばされたりしないんですよ。辺境に飛ばされるのはわたしの様な平民出ばかりですよ」
「そんなものなんですか」
俺は自分からこの辺境にやってきたから別に何とも思わないが、普通の人からすればやはり思うところがあるんだろう。
「それでもお役目ですからね。やるべきことはやらないといけませんからね~」
そう言ってソフィアさんはさらにワインに口を付けた。
「でも、土地の浄化ってこの村の外ですることですよね? 大丈夫なんですか?」
村の外は当然のことながら魔物や魔獣、ときには盗賊の類も出る。
「そうっ、そうなんですよっ! いったいここはどうなってるんですか! 遭う魔物遭う魔物みんな高ランクばかりなんですけど」
「でっ、ですよね? この辺の魔物ってやっぱり強いですよね?」
そう、これだ!
これが普通の反応だ!
さすがこの村の外から来たソフィアさんはその辺の常識がわかっている。
「わたしもそこらの魔物であれば後れをとらないつもりなんですが、この村の周りにいる魔物とさすがに一人では戦い続けることはできません。必然逃げるばかりで思うように調査ができなくて。だからといって冒険者ギルドに護衛を頼むとなるとどうしてもCランクパーティー以上のクエストになりますので予算的に厳しくて」
この村に来てもらうだけでも出張扱いになるのでその分、報酬が上がってしまう。
さらに長期間拘束するとなると費用もばかにならないのだろう。
そういった事情で調査自体、あまり進んでいないという話だった。
俺が凄腕の冒険者であればソフィアさんの力になってあげられるんだが、俺は細腕の錬金術師に過ぎない。
できることといえば話を聞いてあげることくらいだ。
俺は「世知辛いですね~」と言って、この日は遅くまでソフィアさんの愚痴に付き合った。
教会をお暇するとき、ソフィアさんは相当できあがっててヘベレケになっていたが大丈夫だっただろうか。
そう思ったので帰り際には俺謹製の二日酔いに効くポーションを渡して帰った。




