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4 姫様

 俺たちに向かって走って来るのは、この3年間、一緒に過ごしてきた俺たちのグループの最後の1人。


 この国の最高権力者である国王陛下の娘にして第二王女であるユーフィリア王女殿下だ。


 ちなみにこの姫様。


 直ぐに『勅命』と言っていろいろ命令してくる。


 勅命は本来、国王陛下にしか出せない命令のはずだ。


 しかし、この姫様は父親である国王陛下から『この学院においては王女の言葉は国王の言葉である』とかいう訳のわからない言質げんちを取っているらしい。


 そのためこの学院内においては、正式に姫様の命令は国王による勅命という扱いになっているということだ。


 ……この国ホント大丈夫か?


 おっと、こんなことを口に出せば縛り首になるから絶対に言えないけどな。


 ただ、姫様は教師に対して無理難題を押し付けるということは全くなく、せいぜいこのグループ内で、というかおもに俺に対して使ってくる。


 俺に何か恨みでもあるんだろうか?


 前なんか「焼きそばパンを食べたいですわ」とかで勅命で売店に買いにいかされたんだけど……。


 ああ、でもお金はちゃんともらったよ。


 俺がこれまでの出来事(被害)を振り返っているうちに姫様がご到着あそばされました。


「はぁはぁはぁ。まったくわたくしを置いていくなんてひどいではありませんか」


 姫様は息を整えながらおでこに滲んだ汗で張り付いた髪の毛を払った。


 姫様は卒業式の後、式に参加していた国王陛下夫妻や来賓のお偉方と懇談することになっていたはずだ。


「それにしては早くないか? ちゃんと終わってから来たんだろうな?」


「ええ、それはもう。皆様がバラバラに祝意を述べようとされますので、わたくしから皆様に『皆様ありがとうございます。皆様からの祝意、確かに受け取りましたわ。では、わたくしはブランと大切な用事がありますので、これにて失礼致します。ごきげんよう』ときちんとお断りしてまいりました。なので全く問題ありませんわよ」


「問題ありまくりじゃねーか!」


 しかも、国王陛下の前で何をしれっと俺の名前を出してやがるんだ!


 怖い!


 娘についた悪い虫としてプチっと潰されないよね?


 もう、出発の日を明日とか明後日とか言ってられない。


 事態は一分一秒を争う!


 このままこの街を出て行くしか……。


 いや、そもそも行き先を変更してユミル村からさらに遠く、国境を越えて帝国に逃げ込めば……。


「あら、大丈夫ですわよ。お父様も『彼とは一度二人きりでじっくりと話をしてみたいものだな』とおっしゃっていましたもの。きっと気に入られますわ」


 いや~~~~、それはホントだめなやつです。


 もうマジで勘弁して下さい。



「それはそうと殿下、ご卒業おめでとうございます」


「おめでとうございます」


 青ざめる俺を他所よそにエレンとルークはすました顔で姫様に祝意を述べた。


「ありがとうございますわ。皆様もご卒業おめでとう」


「滅相もないことです。それにしても殿下は流石でいらっしゃいますね。まさか文官科と騎士科の二つの科を修了してあまつさえ両学科で首席だなんて」


 そう、エレンの言う通り、こんな常識が欠如しているポンコツお姫様のくせに学業はすこぶる優秀であられた。


 まあ、そのおかげで卒業生総代を誰にするかは満場一致で決まり、万が一にも俺にお鉢が回って来ることはなかったのでそれはありがたかったわけだが。


 姫様は入学時にはまだこの学院に在籍していなかったが、入学から半年経った学科振り分けの時期に突如として編入されてきた。


 元々エレンとは王族と貴族としてのつながりがあったのでエレン経由で俺たち下々(しもじも)の者と既知となり、何故か俺たちと一緒に過ごすようになった。


 最初は俺も姫様に敬語で話していたのだが、俺とエレンが砕けた言葉遣いで話をしていたのを聞いて、自分にも敬語は使わず話せとの『勅命』を受けた。


 なので俺は姫様に対して他の人が聞いたら卒倒しそうな口調で話している。


 しかしどういうわけか、姫様は他の2人にはそういうことを命じていないみたいなんだよな~。



 みなさ~ん、俺は王族に敬語も使わないような常識の欠如した人間ではありませんよ~。



 これでよし。


「姫様は卒業後は王女としての公務一本だろうし、もう俺たちと会うことはないだろうな」


「俺は騎士団だからときどきお姿をお見掛けすることくらいはあるかもしれないな~」


 俺がルークとそんな話をしていると、姫様が満面の笑みを浮かべた。


 ……何か嫌な予感がするな。


 この3年間、俺たちは姫様に振り回されてあれやこれやとひどい目に遭ってきた。


 それはそれで楽しい日々ではあったのだがあまり悪目立ちしたくなかった俺からすればもうお腹いっぱいというところだ。


「うふふっ、まあ、お楽しみは後にとっておきましょう。今日はせっかくの晴れの日ですもの」


 姫様がそう言って空を見上げたのでつられて俺たちも空を見上げる。


 そこには雲一つない青空が広がっていた。


 しかし、突拍子もない姫様のことだ。


 この青空が突如豪雨になるどころか真夏の盛りに雪が降るような何か大それたことをするのかもしれない。


 まあ、辺境の村に行く俺にはきっと関係ないだろう。


 こうして俺は3人と別れ、3年間を過ごした学び舎を今度こそ後にすることになった。

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