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1 同伴

 

「ありがとうございました~」



 そう言ってお客さんを送り出すとちょうど営業が終わる時間だった。


 このユミル村に来てから1か月と少し。


 工房もそこそこ順調に回っている。


 俺は独り暮らしで一人分だけ食事を作るのも大変なので週に何度かは夕食を食堂でとるようになった。


 俺は遣り掛けの仕事をこなして、今日一日の売上と手元にあるお金の確認をすると、戸締まりをして夕食をとりに出かけた。


 村の中心部は夕食の食材の買い出しに来た人や俺と同じように夕食をとりにきた人たちで多少混雑していた。


 そんな中、俺は知り合いを見つけた。


「ソフィアさん、お久しぶりですね」


 俺が声を掛けたのは、この村の外れにある教会で司祭をしているソフィアさんだ。


 今はオフタイムなのだろう。


 以前会ったときに着ていた司祭服ではなく、普通の町娘が着ているような装いだった。


「ブランさんじゃないですか、お久しぶりです」


「ソフィアさんは買い出しですか? それとも食事ですか?」


「わたしは買い出しです」


「ああ、そうなんですね。自炊派なんですか?」


「いえ、そういうわけではないのですが……」


 ソフィアさんと話をしたところ、ソフィアさんはほとんど食堂で食事をとることはないとのことだった。


 この村でまだ一緒に食事をするような親しい人がおらず、かといって周りが仲間うちでわいわいやっている中で一人だけで食事をすることに抵抗があるらしい。


 ということは、誰か一緒に行く人がいれば食堂に行ってもいいということだろう。


「それなら一緒に食堂に行きませんか? 今からちょうど夕食に行くところだったんですよ」


 ソフィアさんはまだ今日の分の食材の買い出しをしていない様子だったので今日は外で済ませないかと誘ってみた。


「えっ、あっ、はい。そういうことでしたら、はい」


 ソフィアさんはちょっと歯切れが悪いものの、俺の提案に頷いてくれた。





「いらっしゃいませ~」


 ソフィアさんと連れ立って食堂へと行くと看板娘のレナちゃんが迎えてくれた。


「……お二人様ですね。こちらへどうぞ~」


 レナちゃんは営業スマイルでにこやかに対応してくれているがなんか眼光がいつもよりも鋭い気がする。


 今が書き入れ時で忙しく気合いが入っているからだろうか?


 俺たちは案内されたテーブル席に向かい合って座った。


「私は日替わり定食にしますのでソフィアさんはゆっくり選んで下さい」


「それでは」


 食堂のメニュー表をソフィアさんに手渡す。


 ソフィアさんは一生懸命メニュー表とにらめっこして何を頼もうかと考えている。


 しばらくしてソフィアさんが顔を上げて決まったということを教えてくれたのでウェイトレスのレナちゃんを呼んだ。


「俺は日替わり定食とエールをお願いします」


「わたしは七色野菜のスープとパンのセットを、あと、果実酒をお願いします」


「かしこまりました」


 レナちゃんは注文内容を復唱するとスッと厨房へ戻りオーダーを通した。




 俺たちが料理を待っている間も食事時ということもあって次から次へと客が入ってくる。


 その中には俺の顔見知りも当然いた。


「あっ、兄貴じゃないですかっ、お疲れ様っす。今日は司祭様もご一緒なんですね」


 若い連中から何度かそう声を掛けられた。


 まあ、これまで基本的にここへは一人で食事に来ていたので珍しかったんだろう。


「……ブランさんはこの村に来られたばかりなのに、もう、村の人たちに馴染んでいらっしゃるのですね」


 ソフィアさんがため息交じりにそう呟いた。


「わたしなんてこの村に来てもう半年になるのに、一緒に何かするような人もいなんですよ。一体ブランさんはどんな魔法を使われたんですか?」


 ソフィアさんは「わらって下さい」と自分を卑下しながらそう言った。


 いや、魔法といっても親友からもらった『艶本』の成果でしかないんですが?


 女性の、しかも司祭さんにそんなことは言えるはずもなく、俺は愛想笑いの苦笑いだ。


「おまたせしました~」


 そんな中でレナちゃんが料理を運んでくれたので、早いうちに食べましょうとこの話を打ち切れたのは僥倖だった。







 食事を終えて、ちょっとお酒を飲みながら雑談をして、だいたい入店してから1時間と少し過ぎたころ、揃って食堂を出た。


 食堂に来たときにはまだ明るく、灯りはいらないくらいだったが、今はかなり薄暗くなっている。


 俺は外に食事に行くときには遅くなることもあるので灯りの魔道具を持って出るようにしているが、食材の買い出しで直ぐに教会に戻るつもりだったんだろうソフィアさんは持ち合わせていなかった。


「よろしければお送りしますよ」


「……いいのですか?」


 こんな村ではあるが、夜の若い女性の一人歩きはやはり危険だろう。


 そう思って提案したところ、ソフィアさんも俺の提案を受け入れてくれた。

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