閑話2 自由人
※ 第三者視点です。
「そういえばルークの配属先はいつ決まるの?」
「あ~、あと1、2か月のうちには決まると思うよ」
「希望は出せるの?」
「出せるけど、俺には他の連中みたいに大きなコネがないからね」
学院上がりの騎士はその多くが貴族の子弟である。
この国に騎士団は実力主義とは謳いつつもやはりそういうところはどうしてもそういうことがある。
「何言ってるのよ、あるでしょ? この国で一番大きなコネが」
「……殿下か?」
「そうよ、大きなコネでしょ?」
「それは間違いないね。しかし、こんなことでお願いするのはさすがにどうかと思うよ。お忙しいだろうし、何よりも今は学院時代と違って気軽に話すどころか会うこともできないしね」
「あら? 別に忙しくもありませんし、いつでも気軽に会いに来ていただいて構いませんわよ?」
「だからって、一介の騎士見習いがどういう名目で会いに行けばいいっていうのさ?」
「友達に会いにいくのに理由がいりますの?」
「いや、友達っていったって……」
「…………」
ルークの目の前にいるエレオノーラはさっきから能面の様な表情で口をつぐんでいる。
いつの間にか視界の外、ルークは死角から聞こえる声と会話をしていたが『ギギギ』と音がしそうなゆっくりとした動作で声の主へと顔を向けた。
「お二人とも、お久しぶりですわね。お元気でしたか?」
「殿下っ!」
こんな場所にいるはずのない人物。
ルークの目の前にいたのはこの国の第二王女、ユーフィリア・ラ・レグナムだった。
――ガタッ、ガタッ
ルークが直ちに席を立ち、それに合わせてエレオノーラも立ち上がった。
そして、ルークは騎士の、エレオノーラは貴族としての礼をとる。
この食堂の一角の騒ぎによってユーフィリアの存在に気付いた他の食堂利用者たちも慌てて立ち上がり第二王女に礼をとった。
「皆様、お昼時に申し訳ございません。わたしくのことは気にせずそのままお過ごし下さいな」
ユーフィリアは良く通る声で食堂全体に聞こえるようにそう言うと、手の平を上下に振って他の客たちに着座するよう促した。
他の客たちは一礼すると着座しそれぞれ食事へと戻った。
『何で教えてくれなかったんだよ!』
『しょうがないでしょ! 殿下が内緒にって仕草をされたら黙っているしかないでしょっ!』
ユーフィリアは二人を座らせると自分も近くにあった椅子に腰掛けた。
「さて、お二人さん。この1か月はいかがでした? 退屈でした? 退屈でしたわよね?」
「いえっ、そんなことは……」
「来る日も来る日も雑用ばかり。自分はこんなことをするためにこれまで勉強してきたのか、というところではありませんの?」
「!?」
ユーフィリアの言葉にエレオノーラは一瞬、表情を変えた。
「ルークはいかがかしら?」
「ええ、訓練で鍛えられています。充実していると思いますよ」
「まあ、お利口さんなお答えですこと。でも退屈でしたわよね?」
「えっ、ええ?」
「た・い・く・つ……でしたわよね?」
「はっ、はい……」
ルークは、笑顔ながらも妙なプレッシャーを放つユーフィリアの圧力にあっという間に屈してしまった。
『ちょっとルーク! 騎士がそんなに簡単に屈していいの?』
『仕えている主君筋なんだからそこは許してくれ……』
二人がヒソヒソと話をする様子をユーフィリアはニコニコしながら見ていた。
「うふふっ。ルーク、心配しなくてもいいですわよ。あなたにはあなたにふさわしい、最っ高の配属先を用意致しますから。ええ、このわたくしの名に掛けて!」
「いえっ、お気持ちはありがたいのですが……」
「ではそういうことで御機嫌よう」
ユーフィリアは自分の言いたいことだけを言うと、ルークの言葉を聞いてか聞かずか颯爽と席を立ち、その場から立ち去った。
「……………」
「……………」
「ルーク、強く生きてね」
「他人事だと思って……」
自分は難を逃れたと思っていたエレオノーラがそれは大きな間違いだったと気付くのはそんなに遠くない先のことである。




