閑話1 卒業から1か月
※ 第三者視点です。
「ルーク、久しぶりね。そっちはどうかしら?」
「騎士団で毎日しごかれてるよ。鉄の鎧を着て、大盾持って走るってもう拷問だよ」
ここは王都の中心部。
王城近くにある王国の中心施設にある食堂の一画。
一組の男女が向かいあって昼食をともにしている。
「そっちはどう? 王立研究院はやっぱり大変だろうね」
「まだ入ったばかりだから雑用というか先輩たちの手伝いというところね。研究院といっても本当の意味で『研究』している部門の方が少ないということもあるけど」
そう言って食事を口に運ぶのはこの国の貴族であるハインリッテ伯爵家の娘、エレオノーラだ。
「そうなんだ。それにしてもブランの奴は上手くやってるのかな? あいつは変なところで抜けてるからちょっと心配なんだよね」
「そうね。ブランはさも自分が常識人で普通みたいに言うけど、ホントいろいろな意味で非常識よね」
「俺は学科も違うし、ブランの錬金術師としての能力は正直よく知らないんだ。この歳にしては凄いって程度にしかわかってないけど、ホントのところはどうなんだろう?」
「私の友達で錬金科を次席で卒業した女の子がいるの。その子も私と同じ王立研究院に入ったんだけどね、その子が言うのよ」
「何て?」
「あ~、みんな普通だ、普通に凄いんだ~って」
「いや、それどういう意味?」
「王立研究院の先輩たちは錬金術師としてやっぱり格上なんですって。でも、それはいつか自分もその域にいけると想像できる程度の凄さなんですって。でも……」
「でも?」
「その子、ブランと学院で一緒だったから実習でブランのやることを間近で見てきたらしいの。で、ブランのやることは理解を超えてるって」
エレオノーラは自分が聞いたことをルークに話して聞かせた。
曰く、魔石を魔力結晶に変えるのに手品の様に手に持ったら次の瞬間作業が終わっていた。
曰く、錬金釜を使った合成を遊びのように錬金釜を回していると思ったら瞬く間に完成させていた。
しかも、それらを鼻歌混じりで片手間のようにしていたという。
それは普通の錬金術師から見れば本当の意味で魔法のようなことらしい。
本来はもっと時間も手間もかかる作業だ。
それも未熟な学院生であれば失敗することだってザラである。
少なくとも鼻歌混じりでする作業ではない。
「それでその子はすっかり自信を無くしていたみたいなの。でも王立研究院に入ったらみんな普通だったんで自信を取り戻せたらしいわ」
「その子、危ないところだったね。まあ、ブランの師匠であるアルメリヒさんからして普通じゃなさそうだしね」
「そうそう、そのアルメリヒさんだけど、この前おじい様にお会いしたときにブランの話になってね」
「おじい様ってことは前の伯爵様?」
「ええ、お父様のお父様ね。で、おじい様がポロっとおっしゃったの。おじい様が子どもの頃からアルメリヒさんの工房って今と同じところにあったって」
「老舗の工房ってこと?」
「ごめんなさい、そう思うわよね。でも違うの。おじい様が子どものころからアルメリヒさんはあそこで錬金工房をしていたんですって。しかも今と変わらないお姿で」
「ほんと? 見間違いだったり、似たお婆さんってことはない?」
「それはないみたい。詳しいお話は聞けなかったけど、ブランと良い付き合いをしたいんだったらそれ以上の詮索はするなって言われたわ」
「何か意味深だね。確かにアレコレ考えてもしょうがないかもしれない。エルフみたいな長生きの種族もいるんだし、その血を引いてるとかだったらそういうこともあるかもしれないしね」
そんな話をしながら2人は食事を進めた。




