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28 ポーション需要

「何があった? 怪我人は外か?」


 若い男の冒険者の切羽詰った声に入口近くにいた他の冒険者たちが若い男の元へと駆け付けた。


 少し遅れて事態を把握した冒険者ギルドの職員が建物の外へと飛び出した。


 俺は完全に外に出るタイミングを逸してしまった。


 男が語る話の内容からこの街の外で魔獣の群れに襲われ、命からがら逃げ帰ってという話みたいだ。


 仲間パーティーの何人かが大きな怪我を負ってしまい、手持ちのポーションも使い果たしたもののまだ傷は深いようだ。


 取り敢えずの応急処置をしているのだろう。


 外から男たちの叫ぶ声が聞こえてくる。


「この怪我だと初級じゃだめだっ、中級以上のポーションはないか?」


「店では中級以上は品切れのはずだ。誰か中級ポーションを持っていないか?」


「1本じゃ足りない! どのくらいある?」


 気になったので冒険者ギルドの外に出て様子を伺ってみる。


 ポーションがないなら買いに行けばいいと思うが、どうやらこの街の商店では中級ポーションが品切れ状態のようだ。


 他の冒険者に手持ちの中級ポーションを融通してもらうよう話をしているようだが、どうやら状況は芳しくないようだ。




「あの、中級ポーションがご入り用ですか?」


 黙っているのもなんなので俺はそう声を掛けた。


 俺はいざという時に備えてポーション類をいくつか持ち歩くようにしている。


 中級ポーションは3本ほど持っていたのでその提供を申し出た。


 いや、流石に『ビジネスチャーンス』とか言って嬉々として売り込むということはできない。


 まあ俺は小村民だからな。


 ほどほどに働き、ほどほどに稼いで、ほどほどの生活ができればそれでいいのだ。


 こういうケースで足元を見て吹っ掛けて恨みを買うようなことは絶対にしないと心に決めている。


 いや、いつか刺されると思うんだよね、そういう人。


 俺はユミル村で長くやっていきたいし、そうなると最寄りのこの街とこの街の人たちとの付き合いも長くなる。


 そういう考えもなくはない。







「いや、助かりました。冒険者でもない一般の方が中級ポーションをお持ちとは」


「いえいえ、何が起こるかわからない世の中ですから」


 ギルドマスターのテオドールさんが冒険者を代表してお礼の言葉をくれた。


 俺が持っていた中級ポーションのうち2本をこの街の商店での販売価格で提供した。


 怪我人は当面の危機を脱することができたようで、あとは治癒院へ行ってしばらく療養するとのことだ。


 話によるとシルバーウルフの群れに襲われ、命からがら逃げ帰ったらしい。


 シルバーウルフはワイルドウルフの上位種で群れになると組織だって行動するとかで脅威度が跳ねあがるという話だ。


 討伐推奨レベルは一人前の冒険者パーティー、ランクでいうとCランク相当の魔獣だそうだが、それでもその群れの規模によっては逃げることを選択しなければならないという。


 今回被害に遭ったのはまだ経験の浅いDランクの冒険者パーティーで、危ういところだったが何とか難を逃れることができたようだ。


「今この街では中級ポーションは品薄なんですがよくお持ちでしたね」


「まあ自分で作ったものですので」


「自分で? ということはあなたは……」


「ええ、錬金術師です」


 俺は内心ちょっと得意な気分ではっきりとそう答えた。


 なんとかドヤ顔にはなっていないと思う。

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