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26 街へ

 今日は平日だが俺の工房は休みの日だ。


 この日を利用して俺はこの村の最寄りの街へ行くことにした。


 今さらだがこの最寄の街はアムレーという名前の街だ。


 ユミル村では街といえばこのアムレーの街を指す。


 村長のカールさんが御者をする馬車に乗って朝一番、ユミル村を出発する。


 乗客は俺一人。


 荷台にはこの村の農作物とか特産品とかが積まれている。


 そうしてお昼前にはアムレーの街に着いた。


 暗くなる前には村へと戻らなければならないため、滞在できる時間はあまり長くない。


 もっとも帰りの乗客も俺一人だけだろうから出発の時間はあくまでも目安だ。


 あまり遅くならないのであれば待ってもらえるという話になっている。


 この緩いところが田舎の良いところであり、場合によっては悪いところだろう。


 街に着くと、俺は何よりも忘れてはいけない師匠への送金を最初にすることにした。


 商業ギルドへいき、師匠に指定されている商業ギルドの師匠の口座に10万ゼニーを送金した。


 それから俺は商業ギルドの窓口で手紙を出す。


 それなりの街と街との間であれば手紙を出すことができる。


 まあ、到着までにそれなりの時間はかかるが。


 俺は師匠とルーク、そしてエレンに宛てて手紙を書いた。


 師匠には工房を開店したことを、ルークには餞別が役に立ったことを、エレンにはとりとめもないこれまでのことを書いて送った。


 併せて商業ギルドの窓口で俺は確認をする。


「ユミル村のブランですが私宛に何か届いていますか?」


「『ユミル村のブラン』様ですか? いえ、特にお預かりしている物はございません」


 受付の若い女性からそう返された。


 手紙だけでなく荷物もそれなりの街と街との間であれば直に送ることができる。


 しかし、人口の少ない村にまでは特別便などを使わないと配達してもらうことはできない。


 やはりというべきか、事前にユミル村への一般的な配達便はないということを聞いていたため、予め俺の周りには何か送ってもらえるものがある場合は最寄の街であるアムレーの商業ギルド止めにしてもらうように話をしていたのだ。


 こうして街に来たときには定期的に確認することになる。






 商業ギルドでの用事を終えると俺は冒険者ギルドへと向かった。


 カインさんから自由に持って行っていいと言われていた魔物や魔獣の素材を持ち込んでみようと思ったのだ。


 俺が知らないだけで実は本当に価値がない物なのかもしれないし、一度実際のところを知っておいた方がいいと思ったからだ。


 魔物や魔獣の素材の買取りは冒険者ギルドでされている。


 冒険者ギルドでの素材の買取は冒険者登録をしていない個人であってもしてもらうことができる。


 もっとも、冒険者が持ち込む場合に比べると買取金額は10%だけ安くなる。


 これは同じ買取金額にしてしまうと冒険者登録をするうまみがなくなり無登録の冒険者を生み出してしまいかねない一方で、逆に買取金額を更に下げてしまうと、冒険者ではない者が冒険者に名義貸しを依頼するということが横行してしまうからだ。


 10%程度の差であれば、冒険者に名義貸料を払うことを考えれば大差ないという判断のようだ。



 ――カランコロン



 冒険者ギルドのドアを開けると扉に付けられていたベルが鳴った


 ちょうどお昼時で冒険者ギルドには食堂が併設されているのでそれなりのにぎわいがある。


 俺が入るとこちらを伺う者がちらほらといたが、直ぐに視線を外された。


 まあ、見るからに一般人で目の保養にもならない野郎だから仕方ないだろう。


 むしろそんな俺に熱心に視線を送られても困るというものだ。


 俺がギルドの受付へと向かうと受付嬢の若い女性が対応してくれた。


「素材の買取をお願いしたいんですが」


「ありがとうございます。あのっ、お見掛けしない方ですが、冒険者の方ですか?」


「いえ、私は冒険者ではありません。一般人です」


「では一般買取ということで買取価格は10%安くなりますがそれでもよろしいですか?」


「はい、売る売らない以前に価値がよくわかりませんのでまずは見ていただければと」


「かしこまりました。ではあちらの買取カウンターに回っていただけますか?」


 俺は受付嬢に案内されて奥にある買取カウンターへと向かった。


 そこはやや奥まっていてロビーや食堂からは見えにくい場所になっている。


 誰がどんな物を持ち込んだのかが他人にわからないようにという配慮のようだ。


 そこには買取担当者と思われる中年の男性がいた。


 俺は手に持っていた鞄からいくつかの素材を取り出し台の上に置いた。


 キラーラビットと思われる魔獣の角に革、あと試しにアースドラゴンのものと思われる鱗のうち一番状態が良くない物だ。


「角に革にこれは?」


「私もよくわからないのですが何かと思いまして」


 男性の疑問に俺はとぼけて返した。


 もっとも、本当の本当にあの生き物が何なのかは、俺にもわからないのでそこは勘弁して欲しい。


 ほら、俺はしがない錬金術師でこの人は専門家プロなんだから何の問題もないよね?


「まず、こっちはキラーラビットの角に革だな。いい状態だ。これなら多少の上乗せはできるな。それからこっちは何だ? んんっ、これはひょっとして鱗か?」


 買取担当の男性は手に持ったアースドラゴンの鱗(暫定)をコンコンと手で叩いたり指で弾いたりして感触を確かめている。


 それにしてもやはりあのウサギは角ウサギではなくキラーラビットのようだ。


 やはりガオンが苦戦したのは相手が悪かったということだな。


 今度酒、は飲めないからジュースの一杯でもおごってやるか。


 それにしてもドラゴンの鱗(暫定)を見ていた買取担当の男性は何かに気付いたかのような表情を浮かべるとピタリと動きが止まってしまった。



(嫌な予感がするな……)



 男性は若い他の担当者を呼んで来るとその人にこの場を任せてどこかへ行ってしまった。


 そしてしばらくしてから他の中年の男性を連れてきた。


「ちょっと別室にお越しいただけませんか?」


 買取担当の男性にそう言われて俺は別室へと案内されることになった。

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