3 本音
ユミル村は、この国の東の端にある小さな村だ。
まったく、この2人はこの国が王都だけで成り立っていると思っているのかね。
俺は懐からこの国の地図を取り出し2人の前に広げて見せた。
まあ、地図といっても庶民でも手に入る大雑把なもので、街の大体の位置が概括的に記載されているものに過ぎない。
「いいか、ここが今俺たちのいる王都、そしてユミル村はここだ」
「ホント、何度見てもとんでもないところにあるわよね」
「おいおい、百鬼夜行はびこる魔境の地みたいないい方はよせよ」
「でも魔物や魔獣、盗賊が闊歩しているんじゃないのか? 騎士団の目も届きにくいだろうし」
「だとしたらあんたの言う通りの場所ということね」
ははは。
まさかモヒカンやスキンヘッドでピアスだらけのお兄さんがヒャハーしている世紀末覇者が大活躍の超危険地帯ってわけじゃないだろう。
ここと同じ王国内だし大丈夫だよね。
そんなことないよね?
ねっ?
「ブラン、短い間だったけどお前と一緒で楽しかったよ。お前のことは忘れないから」
「私、もしブランが王都に帰ってこれたら伝えたいことが……」
いやー、それは死亡フラグです!
ちょっと、ちょっとそれは待って下さい!
まっ、まあ、冗談はさて置き、王都の皆さんにとっては辺境の村というのは概してこんな扱いということだ。
エレンのハインリッテ伯爵領は王都からそんなに離れた場所ではないし、エレンにとってはそれ以上離れている場所は遠くに感じるのだろう。
まあ、人間というものは基本的に比べる動物だからな。
何でも自分を基準として考えてしまうからどうしてもそうなってしまうのだろう。
「王都からどのくらいかかるんだ?」
「そうだな、まあ、だいたい10日くらいじゃないか?」
最近は街道も整備されて馬車の乗り継ぎもスムーズになったと聞いている。
俺が事前に調べた限りではそれくらいでいけるはずだ。
「あんたならもっといい就職先が選べたでしょうにどうしてまたそんなところに……」
「おいおいエレン、その話はもう何度もしてるじゃないか」
俺は成績優秀者とはいえ平民、しかも孤児の生まれだ。
エリートコースの王立研究院の錬金研究所はおろか、王都に店を構える大手の錬金工房も俺みたいなのにはいい顔をしないだろう。
それに学院に通っていたこの3年間でいろいろと疲れたんだよな。
今でこそ、そこまでではなくなったが、学院に入学した当初は、やれ貴族だ平民だといったいざこざは、やはりあった。
王都は勿論、そこそこ大きな規模の街となるとどうしても貴族やお偉いさんとの接点が出てくる。
だから俺はこの国の権力の中心、すなわち王都から離れた場所で権力やしがらみとはできる限り無縁の生活を送りたいのだ。
目指せ憧れのスローライフ!
「でもさ、それだけじゃないだろ?」
「んっ、なっ、何でだ?」
「一番はお師匠さんから離れたいってことはないか?」
――びっくん
まっ、まったく何てことを言うんだこいつは!
俺がお師匠様から離れたいだって?
まさかそんな、俺の敬愛する偉大なお師匠様と……。
そうだっ! まず最初に言っておくことがある。
俺はお師匠様が大好きだ。
俺の恩人であり、錬金術師となる俺が目標とする偉大な女性。
俺がお師匠様を嫌いだとか一緒にいたくないとか、そんなことはまるっきりこれっぽっちもない。
ただな……。
ただ、長い人生、ちょっと、ほんのちょこ~~~~~っとくらいはお師匠様と離れて、自分の力を試してみたいわけだよ。
いつまでもお師匠様の側で面倒をみてもらうばかりでは人として、そして錬金術師としていっぱしにはなれないだろう。うん。
それに俺も年頃の男だし、そろそろ女の子と恋だの愛だのイロイロしてみたいわけだよ。
正直、お師匠様の目の届くところでそんなことが出来るとは到底思えない。
ほんのちょっと、ほんのちょこーーーーーーっと、お師匠様から離れてのんびり羽を伸ばしたいな~、なんて気持ちもないことはないかもしれないが。
「ああ、わかった。もう何も言うな」
「そうね。私も黙っておくわ」
俺の表情を見ていた2人がため息をつきつつそう言った。
えっ、俺何も言ってないのに何がわかったの!?
そんなこんなのたわいもない話をしながら俺たちはこの3年間の思い出を語りあった。
こうして俺はこの学院に別れを「そこの3人、ちょーっと待ちなさい。勅命ですわよ~」
本話もそろそろ締めという段階になって遅れてやってきた人物が約1名。
「あー、やっぱり来たわね」
「まあ、そうだろうと思ったよ」
「はいはい、姫様待ちますよ」
俺たち3人に向かって走って来るのはウェーブした長い金色の髪をなびかせたドレス姿の女の子だった。