21 今度こそ宝の山
狩りから戻ったこの日、食堂では自警団の面々による打ち上げと称した飲み会が行われていた。
今日仕留めたばかりの角ウサギ、いや正式にはキラーラビットであろうと思われる肉も振舞われ飲めや歌えのどんちゃん騒ぎだ。
そんな中でも今日の狩りで魔物や魔獣に対峙して上手く討伐できなかった若手の面々はどんよりとした空気を放っていた。
「ガオン元気だせよ」
そんな彼らを同年代の他の若者たちが慰める。
「ああ、俺って冒険者に向いてないのかな~」
キラーラビットを最低のEランクの魔物である角ウサギと思い込んでいるガオンがそうこぼした。
冒険者にもなっていないペーペーが単独でCランクの魔物を倒せと言う方が無理というものだろう。
俺もそう説明してガオンを励まそうとしたんだが「兄貴、お気持ちだけいただいておきます」とサラっと返された。
というか俺が言ったことは全く信用されていなかった。
他の連中ともちょっと話をしたが、今日、狩った魔物や魔獣はこの村の周りによく出てくるやつらで、それ以外の魔物と比べるとやはり弱い部類なのは間違いないらしい。
確かにちょっと年上の男たちは、こともなげに討伐していた。
んんっ?
何か混乱してきたぞ。
今日一緒に狩りに行ったメンバーをざっくりと分けるとこんな感じになる。
俺とだいたい同じかそれよりも年下の未成年メンバー。
成人した18歳から20台半ばまでの自警団の主力と思われるメンバー。
そして団長のカインさんとそのお仲間の30歳前後でそろそろ一線を退いて後は若い者に任せるよ的な空気を出しているメンバー。
俺とだいたい同じか年下メンバーの力量は今日見た限りではみんなそれなりの力はあったと思うし、相手が悪くなければそれなりの線いったと思う。
しかし、成人した自警団の主力連中は、それをはるかに凌駕した力量を持っていたのは戦闘の素人の俺から見てもはっきりとわかった。
さぞや日々の仕事で力を付けたのかと思いきや、基本的にはみんな農業を生業にしていて普段は特に戦闘訓練はしていないらしい。
そんな彼らも、未成年のときにはやはりなかなか魔物を倒せなくて苦労したという思い出話をしているので最初から今の様に強かったわけではないようだ。
「よう、兄ちゃん、今日はどうだった?」
俺がいろいろと思考を巡らせていると団長のカインさんにそう声を掛けられた。
「いえ、いい体験をさせてもらいました」
「そうか? 雑魚ばっかりで退屈だったろ? 今度はもうちょっと骨のあるやつで訓練するからな」
今日のでも十分骨があったと思いますが?
というかキラーラビットはCランクなわけで、それ以上ってことはBランクとか下手したらAランクってことですか?
またまた御冗談を!
俺が苦笑いしているとカインさんが俺にグラスを差し出した。
俺がそれを受け取るとカインさんが酒を注いでくれる。
緑色をした俺が見たことのないお酒だ。
俺は今年16歳になったばかりでお酒を飲み始めたのはつい最近だが師匠のお使いでお酒を買いに行かされていたからある程度の知識はあるつもりだ。
しかし、そんな俺でも初めて見るものだった。
「これは?」
「これはこの村で作られている秘蔵の酒だ。この村の者しか飲むことを許されていないって酒だな」
コップに鼻を近づけると強いアルコールの臭いとともにスーッとしたハーブの匂いがした。
恐らく多種多様のハーブを使ったお酒なのだろう。
俺は試しにと一口飲んでみると、スーっとした軽い口当たりだったのに驚いた。
わずかな苦みがアクセントとなりながらもその奥に甘さもある。
「これは……美味しいですね」
「だろ? この村には村から出て行く奴は16になる前に出て行くっていう暗黙のルールがあるんだ。そしてこの村に残った奴だけがこの酒を飲める。この酒を飲める奴こそが本当の意味でこの村の一員っていうのが昔からの習わしなのさ」
「そうなんですか」
別に俺が今日何をしたというわけではないが、俺にこの酒が出されたということは、名実ともに俺もこの村の一員として認められたということだろう。
そう思うと気分よく今日の宴会に加わることができた。
「そういえば、今日狩った魔物の素材は売りにいかないんですか?」
以前から聞いていた話では、カインさんは肉屋さんで、獲物の肉は使うようだがそれ以外はどうしているかは聞いていなかった。
「素材? どうせEランクとかそこらの素材だろ? そんなものわざわざ街にもっていったって大した金にはならないさ。田舎者がショボい素材を持ってきたって笑われるだけさ」
「いえ、そんなことはないと思いますが……」
CランクやDランクの素材であれば引く手数多じゃないだろうか。
冒険者じゃないから詳しくはわからないけど。
「まあ、持っていくだけ無駄だからな。うちの店の裏に肉以外の部分は転がしてるから欲しいものがあったら持ってっていいぞ」
「ぅえっ!? でも今日の魔物もEランクではなかったですけど?」
「何言ってんだ。今日狩ったのはここらでも弱い部類だぜ? そんなのがEランクじゃなかったら何だってんだよ。まあ、戦闘経験が少ない錬金術師様にはちょっと刺激が強すぎたか? はっはっはっ」
カインさんはそう言いながら俺の背中をバシバシと叩いて上機嫌で他の奴のところへ行ってしまった。
次の日、工房の営業を終えて肉を買いにいくときに昨日カインさんが言っていた肉屋の裏を見てみた。
そこには、あるわあるわ、何の魔物や魔獣のものかはわからないが、角や牙がゴロゴロしていた。
こういった素材は武器や防具の素材となる他に錬金術の素材になるものもある。
何の素材かはちょっとわからないのでこれはカインさんに聞きながら仕分けをさせてもらおう。
そして俺は無造作に置かれていた木箱の中身を見て口を開けて固まってしまった。
その木箱の中には真っ黒な色をした石がぎっしりと詰め込まれていた。
そう、これは『魔石』だ。
しかも大きさはどれもそこそこ大きなサイズで少なくともEランクの小石サイズではない。
(おいおい、これだけでもいったいいくらになるんだよ)
少し前であれば俺は嬉々としてもらっていくところだが、先日の『癒され草』事件の反省から俺は自分だけが、いい目を見ようとする振る舞いは止めようと心に誓った。
俺が率先して動くことはいとわないが、この村のみんなにとってもいいようになるようにしたいところだ。
となれば相談するのはあそこだな。
俺は明日にでもそこに顔を出すことにした。




