20 疑念
俺は勇んで前へ出るガオンの後をついて集団の先頭へと躍り出た。
目の前には角の生えた丸々とした大きなウサギの姿。
あれが角ウサギか。
ただ大きいだけでなく、迫力がある。
Eランクのとはいえ流石は魔獣だ。
「よーし、いくぜ」
ガオンがそう言って角ウサギと正面から向かい合うと一気に距離を縮めて鉄の剣を振り下ろした。
鋭い太刀筋が目の前の魔獣に向かう。
俺も学院で将来の騎士候補生と同じ授業を受けていたこともあるから少しはわかるつもりだが、ガオンの太刀筋はそいつらと比べても何ら遜色ないものだった。
それだけでガオンがこれまで訓練を重ね、それなりの技量があることが伺える。
しかし、角ウサギはそれを嘲笑うかのようにひらりとその剣を躱した。
「くそっ!」
ガオンが身体の向きを変えて再び対峙して剣を振るがなかなか当たらない。
というかあの図体のくせにえらく身動きのいい魔物だ。
こんなのがEランクなんてやはり冒険者の世界は甘くないということだろうか。
「ぐわっ」
大振りで振った剣を躱された直後、ガオンは角ウサギから体当たりを受けた。
角が当たった場所が鎧のある部位だったから大事には至らなかったようだがそれでも相当の衝撃があったのだろう。
完全に足が止まってしまっていた。
「そこまでだ、加勢するぞ」
カインさんがそう宣言すると、角ウサギが逃げないように周りを囲んでいた他の男たち、俺たちよりもやや年上の20歳前後の2人の男が素早く間合いを詰め、一気に角ウサギを倒した。
「やれやれ。ガオン、まだまだだな」
「おいおい、角ウサギごときに後れを取ってて冒険者になれるのかよ」
年上の他の団員たちからそう囃し立てられガオンは悔しそうな表情を浮かべ、唇をぎゅっと噛んだ。
一方で倒したばかりの角ウサギは、その場で簡単にではあるが解体が始められた。
まずは肉が悪くならないように血抜きをしてしばらく木に吊るされる。
その間に毛皮が剥がされ、角が切り取られていく。
血抜きの過程で身体の中にあった魔石が取り出された。
その魔石の大きさを見て俺は首を傾げた。
(Eランクの魔物にしては魔石が大きくないか?)
魔石の大きさはその魔物や魔獣が持っている魔力の大きさに比例する。
そして魔物や魔獣の強さは魔力の大きさに比例する。
討伐ランクの低いEランクの魔物や魔獣の魔石は小石程度の大きさのはずだ。
俺も魔石を精錬して魔力結晶に変える作業をしたことはあるし、その際、その魔石の大きさに応じて作業料が変わってくるので、どの程度のランクの魔石がどのくらいの大きさかということはある程度知っている。
だからどう見ても、目の前の角ウサギから取り出された魔石はEランクの魔物としては不釣り合いなのだ。
(ひょっとしてこの魔獣、角ウサギではないのでは?)
勿論、Eランクの魔獣であっても特殊個体として成長するものもいなくはない。
しかし、そうであれば自警団のみんなの様子はもっと違ったものになるはずだ。
ガオンを含めて自警団の面々は、目の前の角ウサギの動きを見ても何の違和感も覚えなかったようだ。
つまり、この村のみんなからすればこの角ウサギはごく普通のいつもどおりの魔獣だったということだ。
俺が考察している間にも倒され血抜きされた角ウサギは他の団員たちに抱えられて再び森を進むことになった。
「ゴブリンか」
「アルラウネだな」
名前だけで判断するといずれもEランクの魔物たちだ。
そのたびに訓練と称して10代前半の近い将来村を離れる予定の若者たちが向かっていく。
しかし、ある程度のダメージを与えることができても倒すまでには至らない。
俺の目からはみんなそれ相応の訓練をしていてそれなりの動きをしているように見える。
ただ最終的には年上の団員たちが最後の後始末をするという流れで訓練は進んだ。
倒された魔物の解体は俺も手伝った。
というのも、さっきの角ウサギの魔石はたまたま大きかっただけなのか、それとも今回の魔物も同じように大きいのかを確認したかったのだ。
(ああ、やっぱり……)
ゴブリンの魔石もアルラウネの魔石もどちらもEランクの魔物のものとは思えないサイズだった。
というか、ゴブリンの身体を間近で見て俺は確信を持てた。
(こいつはハイゴブリンじゃねーか!)
見た目はゴブリンとあまり違いがわからないが身体の一部のつくりが若干違うのだ。
ただのゴブリンであれば討伐ランクはEだが、ハイゴブリンとなると討伐ランクはDである。
たまたま俺が知っていたということもあるが、それで俺は確信が持てた。
みんながEランクの魔物だと思って狩っているやつらは大体がその上位種ではないかと。
この日訓練が終わってから俺は調べてみることにした。
その結果、角ウサギだと思っていた魔獣はどうやらキラーラビットという別の魔物である可能性が濃厚のようだ。
ちなみに討伐推奨ランクはC。
まだ冒険者にもなっていないガオンには荷が重すぎて当然だった。




