19 狩り
この国では毎週1日の安息日と呼ばれる公休日が定められている。
この日はお役所の他、冒険者ギルドや商業ギルドといった準公的な機関も休みだ。
街の商店は従業員を交代で休ませることで店を開け、休日に街へと繰り出す人々を待ち構えている。
一方でこのユミル村はこの日は基本的に商店も休みだ。
俺の錬金工房もこの日は休みをいただいている。
俺の錬金工房は安息日だけでなく他にも平日に1日別に休みを設定していて週休2日にさせてもらった。
一人で工房を切り盛りするのはやはり大変だからというのもあるが、うちの店はそこまで人がごった返すような業種ではないということもある。
他にも村の外に素材を仕入れに行くこともあるということも理由の一つだ。
それ以外にも必要があれば臨時休業をすることも契約上認められている。
その一方で、何か緊急のことがあれば融通を利かせて臨時で店を開けることも頼まれていてそこは辺境の村らしく大変ファジーだ。
「みんな揃ったか?」
そう言ったカインさんの前に自警団の面々が集まっている。
ここは村の入り口にある広場だ。
今日は訓練を兼ねた狩りが行われるということで俺もそれに参加している。
自警団のメンバー全員が揃って村を離れるとその間に何かあってはいけないし、そもそも集団が大き過ぎると身動きがとりづらい。
そんなわけで今日参加しているのは団長のカインさんを含めて15人ほどだ。
俺は村から鉄の剣を借りての参加だ。
防具に関しては身体の枢要部を守る魔獣の革でできたプロテクターを借りることができた。
周りを見ると、本格的な奴は自前で装備を揃えているようでメインとなる得物はそれぞれの得意な物を用意している。
槍や斧、弓矢だけでなく鉈を得物にしている奴もいるなど千差万別だ。
正規の軍隊ではないわけで武器の統一性とかはあまり関係ないようだ。
むしろ同じ武器を持っている者ばかりでは状況によってはかえって対応が難しくなる場合もあるとかで多様性を持てるよう編成は工夫しているそうだ。
ユミル村の東側は森が広がっており、さらに進むと山がある。
今日は森に入って魔物や魔獣がいればそれを狩ることになっている。
「兄貴は戦闘経験あるんですか?」
定例会でいっしょに飲んだガオンがそう俺に聞いてきた。
おっと、飲んだというのは語弊があるな。
この国では成人となる年齢は18歳とされているが、以前は16歳だった。
その名残で、お酒を飲める年齢は以前と変わらず16歳となっている。
ガオンはまだ14歳なのでお酒はダメという扱いだ。
これについては意外なことにこんな辺境の村であっても厳格に守られているそうだ。
話はそれたがこのガオンの実家は兄が継ぐ予定とのことで15歳になる来年には冒険者になるためこの村を出て行く予定と話してくれた。
それまでは実家の農作業の手伝いをしながら時間があるときには自分で訓練もしているらしい。
武器はオーソドックスに鉄の剣だ。
しかし、自前の物らしく俺が持っている貸与されたものに比べると色々な部分で立派に見える。
「戦闘経験と言えるほどのものはないな。学院にいたときには戦闘の基礎訓練や模擬戦なんかはやったことがあるくらいだ」
王立高等学院に入学して最初の半年は総合科でいろいろな分野の基本的なことを学んだ。
王立高等学院はこの国のエリート養成機関ということになっており、ここの卒業生は将来この国を担うことになる。
専門ではないこともある程度のことは教養として教えられた。
錬金科に上がってからもわずかな時間ではあったがそういった授業もあったがまさかこんなところで役に立つとは人生何があるかわからないものだ。
そういうことで、俺も基本的な武器の取り扱いや戦闘訓練は受けているので辺境の村人に引けはとらないと信じたいところだ。
「よし、出発するぞ!」
カインさんの号令で俺たちは森に向かってぞろぞろと歩き始めた。
俺と一緒に移動するのはガオンの他はヘンリーという名前の15歳の男だ。
ヘンリーは例の第二王女のことが大好きと公言する騎士志望の男だ。
来年の騎士団入団を目指しているそうで今年の終わりに騎士団入団試験を受けると聞いてもないのに説明してくれた。
ガオンが俺の右隣り、ヘンリーが俺の左隣りという隊列で俺たちは集団の中ほどからやや後方の位置に並び、森に向かって歩いていく。
そうして森の入り口付近にまで差し掛かったとき、俺たちの前に一体の魔獣が現れた。
「おっ、角ウサギだ」
「本当だ」
集団の前方にいる男たちからそういう声が聞こえた。
どうやら『角ウサギ』という魔獣が出たらしい。
角ウサギは俺もその名前を聞いたことがあるオーソドックスな魔獣で、冒険者ギルドでは確か討伐推奨ランクEの新人冒険者御用達の魔獣のはずだ。
「雑魚だな。来年村を出るひよっこども、お前らの訓練にはちょうどいい」
先頭にいたカインさんがそう言って後ろにいる俺たちに声を掛けた。
「よし、なら俺がいってくるぜ!」
俺の隣にいたガオンがそう言って駆け出していく。
俺も生で魔獣との戦闘を見る機会はあまりなかったので前の方に行ってガオンが角ウサギと戦うところを見ることにした。




