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18 自警団


「それで話って何だ?」


「ええ、兄貴に自警団に入っていただけないかと」


「自警団?」


 話によるとこの村では若い男衆を中心とした自警団という組織があるとのことだ。


 村の中での見回りや外敵が来た場合の防衛などをする正真正銘、村の防衛隊らしい。


 当初は俺のような外から来た余所者よそものを入れる予定はなかったようだが、どうやら俺は若い男衆の満場一致で特別に迎え入れられることになったという話だった。


「勿論、工房優先で構いません。村長からも『せっかく呼んだ錬金術師に何かあったらわかってるんだろうな?』と言われてますので、危険なことはしていただかなくていいです。顧問的な位置づけといいますか」


 自警団に入るのはこの村では名誉なことなんだろう。


 しかし、どうしたらいいだろうか。


 ちょっと面倒かな?


 むげに断るのもなんだしな~。


「みんな自警団は楽しいか? やっぱり仕方なくやってるって感じなのか?」


「そりゃ、こんな村ですからね。自分たちの身は自分たちで守ると言いますか」


「それに何かあったときに活躍できればヒーローになれますしね」


「一夜でモテモテになるってこともありますしね」


 えっ、マジですか?


 そんな田舎カントリードリームがあるんですか?


 正直田舎舐めてたな……。


 まさかそんなことがあるとは。


 確かに田舎ではいざというときに自分や家族を守ることができる度胸や腕っぷしは異性に対する強力なアピールポイントだ。


「まあ、兄貴は錬金術師ってだけで女どもが放っておかないでしょうが、そこに男気も加われば鬼に金棒ですぜ」


「そっ、そうだな。まっ、まあ俺は女にうつつを抜かすことはないが、うん、せっかくこの村の一員になったんだ。喜んで参加させてもらうよ」

 

「でしたら、今日の夕方に集会がありますのでお迎えに上がります」


 俺は第二の故郷になるかもしれないこの村を愛する熱い心とちょっとした、ほんのちょ~~~っとしたわずかな下心とで自警団に入ることになった。








 開店初日をつつがなく終え、夕方になった。


 昼間工房に来た若い男たちに案内されて俺は村の宿にある食堂へとやってきた。


「みんな、兄貴を連れてきたぜ」


「兄貴、お疲れさまです」

「「「「「お疲れさまですっ」」」」」


 何か凄えな。


 艶本ごときで正直こんなことになるとは夢にも思わなかった。




「おう、あんちゃんも自警団うちに入るんだってな?」


 遅れてやってきたのは肉屋の店主であるカインさんだ。


 自宅兼工房の引き渡しを受けてからは、俺も少しずつ自炊を始めた。


 勿論、肉を買うこともありカインさんの肉屋に買いに行っている。


 そういうわけで既に顔見知りで、ある程度話をする関係にはなっているというわけだ。


「カインさんも自警団なんですか?」


「おうっ、っていうか今は俺が団長だな」


 自警団は主に10代から20代の村の男たちで構成されている。



 カインさんは肉屋といいながら、その仕入れは野獣のみならず、魔物や魔獣までも自ら狩ってきて解体し、

その肉を村で販売しているという。


 そんなカインさんは自警団の連中を訓練の一環として狩りに同行させ、戦い方を教えているようだ。


「今日は月に1回の自警団の定例会でこの食堂は貸し切りだ。今日は今後の活動内容の確認とあんちゃんの歓迎会だな」


 俺のことは『この村に来ることになった錬金術師』としてみんなもう知っていることだったので手短に簡単な挨拶をすると、直ぐに宴会に突入した。


 というか今後の活動内容の確認はいいのか?


「兄貴、ささっ、どうぞ」


 俺が置いてけぼりを食らっていると若い一人の男がやってきて俺のグラスにエールを注いてくれた。


 工房まで開店祝に来てくれた男でガオンという名前の14歳の少年だ。


「すまないな。で、定例会はいつもこんな感じなのか? 自警団の活動の話とかはしないのか?」


「うちはいつもこんな感じですよ。活動の話っていったって帰りにカインさんからいついつ何するから準備しとけよ、で終わりですから」


 なるほど。


 この自警団という集まり自体、閉鎖的な田舎の若い連中の発散の場という感じだな。


 それに加えて同年代の集まりで一体感を生んで、組織としてのまとまりもつけようといったところか。


「自警団というからには武器や防具はどうするんだ? 自分持ちか?」


「将来、冒険者や騎士を目指して村を出て行く予定の連中やこの村残留組でもこだわりのある奴は自分で用意しますね。そうではない奴には村から貸与されますけど」


「そうか。まあ俺はしがない錬金術師だし、取り敢えずは貸してもらっておくか」


 村にはいざというときに備えて武器の備蓄があり、いよいよというときには自警団以外の村人も武器を手にして戦えるようにとそれなりの備えがされているそうだ。


 元自警団の村人は予備役とかで場合によっては非常招集とかもあるらしい。


 ユミル村は単なるのどかな村ではなく、村人たちの努力があってこそ今こうして存続しているようだ。


 工房の開店祝も兼ねて、入れ替わり立ち代わり村の若い衆が俺にエールを注いでくれた。


 そうして2時間くらい経ったころカインさんが宣言した。


「次の休みは訓練で森に狩りに行くからしっかり準備しとけよ。ブランも勿論参加だからな」


 こうして次の休みには俺も狩りに同行することになった。

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