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17 開店

 あの『癒され草』の失敗から気合を入れ直した俺は開店準備のため、中級ポーション、毒消しポーションなどのポーション類を中心に商品を作って準備し、とうとう開店の日を迎えた。


 とはいえここは田舎のしがない工房。


 オープン記念セレモニーなどあるはずもなく、何となく開店時間を迎える。


 開店時間は朝の9時。

 

 もしここが王都であれば朝はゆっくり10時開店とするところだが農業主体のこの村はやはり朝が早い。


 そしてそれに連動するように夜も早いので俺の生活リズムも王都に住んでいたときよりも1、2時間早くなったのでまあちょうどいいだろう。


 自宅兼工房のため通勤時間はない。

 

 初日ということもあり開店時間に合わせて村長さんや雑貨屋のスコットさん、それに内装をしてくれた木工屋のマイクさんといったこの村に来てからお世話になった人たちが顔を出してくれた。

 

 村長さんとは約束している村へのポーション納入についての打ち合わせをした。


 今手元にあるもので今月の約束分を納めることもできるが、そうすると店の在庫が減って他の村人(お客さん)が買えなくなるかもしれない。


 そういう訳で今月納入予定分の3分の1だけ納入することになった。


 マイクさんが作業中によく手を怪我するからという理由で早速初級ポーションをまとめ買いしてくれた。






「兄貴、開店おめでとうございます!」


「「おめでとうございます」」


 この村の大人の皆さんの波が落ち着いたお昼前、そろそろ昼休みというときに若い男たちがそう言いながら店に入ってきた。


 その手には花が植えられた植木鉢を持っている。


 何という花かは知らないが白い大きく立派な花弁の花が咲いている。


 何の花かと聞いてみると蘭という花だそうだ。

 

「おお、ありがとな」


 俺はそう言って、差し出された植木鉢を受け取った。


 これはありがたく会計カウンターに置かせてもらおう。


 この若い男たち。


 こいつらはこの村の未成年の男たちだ。


 こいつらと出会ったのは工房の開店準備期間中、たまたま俺がレナちゃんと道で会って話をしていたときに偶然鉢合わせになった。


 で、ルークの言ってたとおり、当初は、まあ、俺に対する視線がスゴかった。


 何というか親の仇でも見るみたいな目で俺を見るんだよな。


 レナちゃんはどうやらこの村の男たちに人気のあるのようで、そんなレナちゃんと余所者よそものである俺が親しげに話をしていればそれはもう嫉妬の炎が燃え上がるというものだ。


 そんな彼らとは俺も腹を割って話そうと、一度そいつらのリーダー的な奴に挨拶したいと言って話をしたわけだ。


 最初こそ怪訝な顔をされたが、新入りが挨拶したいというなら取り敢えず話を聞こうってことで会う段取りをつけるのに苦労はしなかった。


 そしてそこで威力を発揮したのがルーク様からいただいた餞別だった。


 ホント奴の慧眼には恐れ入る。


 お近づきの印にとブツを見せたら、もう1週間餌やりを忘れてた動物かっつーほどの食いつきだった。


 そして、何の問題もなく「お前はこの村の仲間だ」とのお墨付きをもらうことができた。

 

 帰り際には全員に手を差し出されて固い握手を交わし、俺はなぜか「兄貴」呼ばわりされることになった。

 

 年下からだけでなく年上の奴からも『艶本の仁義』とかで俺が兄貴分らしい。

 

 というか艶本(エロ本)すげーな。


 中には艶本には興味を示さない、もしかして男色家? という奴もいたが、話を聞くとどうやら騎士志望の奴だった。


 で、そんな彼は「将来騎士になって第二王女殿下に忠誠を誓う」とか言い出す残念な奴だった。


 あんな頭のおかしい姫様に忠誠を誓うとかそれはもう人生として道を踏み外している。


 悪いことは言わないから他の道(まっとうなみち)に方向転換して欲しいところだ


 しかし、あの姫様。


 外面そとづらは大変ご立派でいらっしゃる。


 見た目は美人だし所作の美しさは流石だ。


 この国の民の多くは才色兼備な彼女に好感を抱いていることだろう。


 まったく存在自体が詐欺みたいな姫様だ。


 そんな目をキラキラさせる彼の夢を壊すようなことは小市民、いや今や小村民の俺にはとてもできない。


 そんなわけで俺は苦笑いで対応する他なかった。


 そいつには、学院時代に何故か姫様から姫様自身の肖像画の版画ってやつをもらっていたので、その中の一つを進呈した。


 姫様って、何故かことあるごとに自分の版画を俺にくれたんだよな。

 

 せっかくもらったものだし、いくら性格がアレな姫様とはいえ一応は王族のそれなので粗末にすることもできず、実は結構な数が溜まってしまっている。


 ちょうどいいからと思って何気なくそうしたんだが、そしたら騎士志望くんから神のごとく崇められた。

 

 どうやらレアものの版画の様で、限定版とかなんとか言っていたが俺にはよくわからなかった。

 

 とにかくその騎士志望くんはこの村にいる間は、俺の身を守ってくれるらしい。

 

 何かよくわからんがありがたく守ってもらうことにした。





「それで今日はお祝いだけか? 何か買って帰るか?」


「いえ、ちょっと俺たちではこの店の商品は……」


 そう、この店の商品は俺が言うのもなんだか少々お値段が張る。


 初級ポーションでもそこらの傷薬の数倍はする値段だからな。


 お子さまたちにはちょっと手が出ないだろう。


「なら今日はわざわざお祝いに来てくれたのか。わざわざすまなかったな」


「いえ、他にも話がありまして」


「話?」


 俺はそう言って首を傾げた。 

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