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2 きみの進路は?

 

「あっ、いたいた。ブラン、見つけたわよ。もうっ、今日くらいはゆっくりしていきなさいよね」



 俺たちが師匠を見送って直ぐ、校舎から出てきたのは一人の女の子だ。


「おっ、エレン、卒業おめでとう」


「あっ、ルーク。んんっ、よし。ありがとうございます。そちらもご卒業おめでとうございます」


 エレンはルークから声を掛けられると姿勢を正し、そう言って優雅に礼をとった。


「どうした、エレン。何かいいところの御嬢さんみたいだぞ?」


「何言ってんのよ! 私はこれでもハインリッテ伯爵家の令嬢よ。貴族き・ぞ・くなの! みたいじゃなくて本物の御令嬢よっ」


 ああそうだ、そういえばそうだった。


 エレンの正式な名前はエレオノーラ・ディ・ハインリッテとかいう長い名前だ。

 ハインリッテ伯爵家の御令嬢で、本来、元孤児で平民である俺がこうして口をきくことができるような人種ではない。


 エレンはこの学院の同級生で、入学して以来、何かと関わることが多かった。


 成績は超優秀。


 というか今年の魔術科の首席卒業生だ。


 俺がエレンに最初に絡まれたのは学院に入学して直ぐ。


 入学試験の結果で俺が首席でエレンが次席だったことが発端だった。


 この学院は最初の半年間はみんな総合的なものを学ぶ総合科に所属し、入学して半年後に各学科に分かれるというカリキュラムになっている。


 そのため入学試験は新入生共通であったため、順位も全体のものとして出されたというわけだ。


 最初こそエレンにライバル認定されて総合科にいたときには試験の度に勝負を仕掛けられたが、所属学科が別れてからはそんな関係ではなくなった。

 ちなみに、総合科での試験勝負は俺の全勝だ。


 エレンは貴族とはいえ、別に身分を笠に着て平民を下に見るような狭量な人間ではなかったので、いつの間にかルークを含めて一緒に過ごすことが多くなった。


 エレンは意思の強そうな目鼻立ちに明るい茶色の長い髪のいかにも快活そうな女の子だ。


 あまり貴族らしくなくてつい忘れてしまうがエレンも立派な御令嬢だった。


 エレンは成績だけでなく、その美貌もあってか、他の連中から高嶺の花扱いされていたためいつも一緒にいた俺への視線はなかなかのものだった。



 ふむ。


 つまり、俺が他の連中とつるめなかったのはエレンのせいだということだな。


 そういうことにしておこう。



「で、なんだ? エレンも俺との別れが惜しいのか?」


「なっ、違っ、いえ、違わなくもないけど、ああ、えっと……」


 何かごにょごにょ言っててよくわからないな。


「いや~、それにしても卒業か~、早いようなそうでもないような不思議な感じだな」


「そっ、そうねっ。そうだ、ルークは騎士団に入るのよね? いつから?」


「形式上は1週間後からなんだが事前研修とかいう名目で実質明後日あさってからだな。エレンは?」


「私は10日後からね。ただ、事前に目を通しておかないといけない資料やら何やらがあるわ。それも大量に……」


「流石に天下の王立研究院は甘くないか」


 卒業後の進路はルークが騎士団に『騎士見習い』として入団、エレンが王立研究院の魔術研究所に『初級魔術師』として入所することになっている。


 ルークの進路は騎士科としてオーソドックスな部類でエレンは魔術科でのエリートコースといったところだ。


「で、錬金科の首席卒業生様はどうなんだ?」



 ふふふ、よくぞ聞いてくれました。



「俺は明日か明後日、用意ができ次第王都(この街)を離れるぞ」


「え~っと、何ていったっけ? あんたが行くところ」


「おいおい、もう、何度も教えたじゃないか」


 そう、俺の進路についてはもう何度もこの2人には伝えている。


 エレンは魔術科の首席なのにこんなことも覚えられないなんて魔術科のレベルは一体どうなっているんだろうか。


「ちょっと、私の頭がおかしいみたいなこと言わないでよ。正直、あんたの進路が理解できないというか、私の頭があんたの選択を拒むというか……」


「だったらエレンの頭が拒否できないレベルで何度でも刻み込んでやるよ。いいか、よ~く覚えておけよ」


 俺は大きく息を吸い込みためを作って言う。



「俺が行くのは『ユミル村』だ!」



「「だから、どこ(だ)よ、それ!」」


 辺りに2人の大きな声が響いた。

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