13 試運転
雑貨屋さんに注文していたポーションを入れる瓶を始めとする備品や錬金素材が届いた。
錬金素材もその種類によっては消費期限というものがある。
素材のうち草花はしなびたり枯れたりすると期待していた効能を得ることができないことがある。
俺が持ち込んだ錬金素材には『状態保存』の錬金術を掛けているのである程度消費期限を延ばすことができる。
しかし、それも完璧とはいえず、どうしても多少の劣化は進んでしまうので俺がマジックバッグに入れて持ち込んだ古い物から使って商品を作るとしよう。
初日に並べる商品を作っていくとして、諸々の準備を含めて開店は1週間後というところだろうか。
俺は工房の試運転として一番需要の高そうな初級ポーションを作ることにした。
材料は『薬癒草』に『純水』が基本。
これに『大魔草』を入れるレシピもあるが俺は入れない。
大魔草を入れると加える魔力を抑えられる反面、材料が増える分だけコストがかかる。
魔力が安定しない初級錬金術師であれば仕方ないかもしれないが、中級錬金術師である俺には基本的に必要ない。
その他に工房によってはオリジナルの素材を追加したり作り方を工夫するなどして独自の製法で作ることもある。
それらは効能や性能を高めるためのもので錬金術師や工房ごとでその製法は極秘とされている。
まあ、俺も師匠直伝のレシピがあるにはあるが、今回は試運転なのでまずは一般的な作り方で普通に作るとしよう。
まずは材料となる薬癒草を錬金釜に入れる。
この薬癒草は予め洗浄済みだから今日はこのまま使える。
これに純水を加える。
ただの水でも使えないことはない。
この村の水は田舎だけあってきれいではあるものの、最大限効果を発揮させるにはやはり純水の方が良い。
この村の生活用水を錬金術によって『精製』して不純物を取り除き純水としたものを用意した。
使用する水は蒸留した水でも勿論構わない。
これを錬金釜に入れて蓋をする。
錬金釜の魔力注入棒を手に持って錬金釜を回しましょう。
ぐ~るぐる、ぐ~るぐる。
魔力注入棒を通して身体から魔力が減っていく感覚がする。
錬金釜の小窓から中の様子を確認しながら加える魔力を調整していく。
中に入れた薬癒草が徐々にその形を崩していく様子を見ながら次に魔力を加えるタイミングをはかる。
こうして錬金釜を使うことで、従来は分解からの成分抽出とその次の過程である純水に魔力を加えての合成といった2つの工程を一度に行うことができるようになった。
工程としては格段に楽にはなったし、使う魔力の量も効率的になった。
しかしその分、精緻な魔力操作が求められるので錬金術師によっては敢えて錬金釜を使わないという主義の人もいると聞く。
そこは、まあ好みの問題だろう。
錬金釜の中の様子からあともう少し魔力が必要そうだな。
もういっちょいきますか。
ぐ~るぐる、ぐ~るぐる。
ある程度魔力が行きわたったら、後はしばらく置いて魔力が薬癒草の抽出液と純水との混合液に馴染むまで待つ必要がある。
この待ち時間は錬金術師の技量の他、魔力の質や量によっても変わると言われている。
そうしてしばらくすると錬金釜の中からじんわりと光が漏れるのが見えた。
おっ、どうやら完成したようだ。
俺は錬金釜の注ぎ口を開き、そこに備品であるガラスのビーカーを置いてそこに注ぐ。
できたてのポーションは淡く光を発していて幻想的だ。
初めて作りたてのポーションを目にしたときの光景は今でもはっきりと思い出すことができる。
そうしてしばらく経つとポーションから光が消えた。
俺は錬金術の一つである『解析』を使ってポーションの性能を確認した。
今回できた初級ポーションの性能は、まあ並みだな。
効果もそうだが、有効期限も中級錬金術師が作るものとして可もなく不可もなくといったところだ。
俺はビーカーに注がれた初級ポーションを瓶に詰め、蓋をした。
有効期限を書き込んだ紙片で封印をしてこれで完成だ!
ああ、そうだ。
俺の工房で作成したんだからそれがわかるように印をつけなければいけないな。
勿論、それをしないといけないという決まりはない。
しかし、高名な錬金術師や有名な工房なんかは自分たちが作ったことをはっきりとさせるためそうしている。
高名な鍛冶師が作った武具に銘を入れるのと同じだな。
いわゆるブランドと言われるものだ。
自分で工房を開くからにはそういったことも考えないといけないな。
しばらくはこの村の人たちを相手にするだけだからすぐにどうこうしなくてもいいだろう。
しかし、この工房で作ったものかどうかくらいはわかるようにしておきたいところだ。
それは今後の課題としておこう。
今の作業で3本ほど初級ポーションができた。
試運転ということで材料を少な目にしていたので、こんなものだろう。
試運転が終わり、俺は本格的に商品作りを始めることにした。




