9 村巡り
――翌朝
「お兄さん、おはよう」
朝食をとるため食堂へ行くと女の子からそう声を掛けられた。
この娘はレナちゃん。
年齢は俺よりも2つ下の14歳。
長い金色の髪を左右で結った髪型をしている。
いわゆるツインテールというやつだ。
彼女はこの宿の娘さんで家業の手伝いをしている。
昨日の夕食のときに食堂でウェイトレスをしているところ初めて顔を合わせた。
昨日の朝は俺がちょっと遅かったから会わなかったようだ。
「それで今日は何をするの?」
朝食を終えて食後の一服をしていたところ、レナちゃんにそう聞かれた。
ここは宿の食堂である一方で、村人も利用する飲食店でもある。
この村に滞在する外部の者はあまりいないようで、この食堂は基本的には村人を相手にしている。
で、その村人が主に利用するのは夕食時ということで朝の時間帯に食堂を利用する者はそこまで多くはないようで彼女もどうやら暇らしい。
「そうだね。この村をぐるっと見て回ろうかと思ってるんだ。まだ村長さんの家くらいしかわからないから」
「そうなんだ! だったらわたしが案内してあげようか?」
「いいの?」
一人で見て回るよりも案内してくれる人がいた方がよくわかるだろうし、迷うこともないだろう。
でも仕事はいいんだろうか?
それを指摘したらレナちゃんは宿のご主人に確認すると言って奥に引っ込んでしまった。
それから少しして戻ってくるときちんと了解を取り付けたということだったので一緒に村を回ってもらうことにした。
「お待たせっ!」
レナちゃんはちょっと着替えてくると言うので待っていると5分経ってやってきた。
先ほどは室内着にエプロンを付けた服装だったが今はちょっと余所行きの街娘といった装いだ。
パステルカラーの明るいピンク色のワンピースにアクセントにちょっとしたフリルがあしらわれている。
こうして女の子と外を歩くということはあまりなかったので俺としてはちょっと新鮮だ。
いや、エレンや姫様に引っ張りまわされたことはあるが、あのときは制服姿だったり、そうでなければ2人は王族にお貴族様なのでドレスやそれに準じる格式の服装だった。
こうしてごく普通の格好をした女の子と一緒にというのは少なくとも学院に入ってからはちょっと記憶にない。
「どうしたの?」
「いや、別に……」
「ふ~ん」
レナちゃんはそう言って不思議そうに首を傾げたがすぐに表情を戻した。
「で、どうする? どこか案内して欲しいところはある?」
「とは言ってもこの村に何があるかなんてわからないしな。例えばどんなところがあるんだ?」
「そうねぇ~、例えば生活に関係するお店から案内するとか、村をまずはぐるっと1周して目に入るものを説明するとか。あとは、人の集まるところとか?」
「なら、まずはお店からがいいな」
工房の引き渡しを受ければついに憧れの一人暮らしが始まる。
その前にいろいろと準備をするにはまずこの村のお店を把握しておきたいところだ。
そういうことでまずは村長さんからも話を聞いていた雑貨屋を案内してもらうことになった。
「こんにちは~」
そう言ってお店の中へと入っていったレナちゃんに俺も続いて入った。
お店は木造の建物でお店の中心部には大きな台がある。
その台にはテーブルクロスが掛けられていてその上に小物や雑貨がきれいにディスプレイされていた。
壁際には棚が並んでいる。
いわゆる台所やトイレ、お風呂で使うような生活雑貨のうち、金属でできた物が中心のようだ。
他には布製品や下着もある。
一画には衣類もいくつかハンガーに掛けられて陳列されていた。
ちょっとした物であれば揃うかもしれないが、種類はそこまでではなく、やはり村の雑貨屋という感じだ。
「レナちゃんいらっしゃい。おや? 見ない顔だね。ひょっとして外から来た錬金術師さんかな?」
「あっ、はい、ブランといいます」
奥から出てきたのは30歳前後くらいに見える男の人だ。
「ようこそユミル村へ。村長からは素材の仕入れで話があるかもって聞いてるよ。今日はその話かい?」
「いえ、まずは村の中にどんなお店があるのかレナちゃんに案内してもらってるところです」
店主さんはスコットさんという名前で、俺はいい機会だからと直ぐに必要となりそうなポーション瓶などの備品と今後必要となりそうな錬金素材の発注をした。
備品関係はある程度この店に在庫があるようなので俺が工房の引き渡しを受けた後、納品してもらうことになった。
錬金素材は街の商業ギルドから取り寄せるのでどのくらい時間がかかるかはわからないという話だった。
雑貨屋を出てからはマイクさんの木工店、肉屋、野菜が買える農作物の集積場、あといくつかのお店を回った。
これらのお店は村の中心部に集まっているため、少し移動しただけで大体回ることができた。
「この村でお兄さんが必要そうな場所はだいたい回ったかな~」
「じゃあ、今度は村をぐるっと回ってから宿へ戻ろうか?」
時間的にちょうど宿に戻ったころがお昼ご飯の時間となるだろう。
レナちゃんに連れられて村の外れの方へと向かった。
村とはいえ中心部はやはり家やお店が集まっているが村の外れに向かうと広い農地が目に入る。
「この村では何を作っているの?」
「特にこれっていうのはないと思うわ。主食の小麦にあとは野菜ね」
「ふ~ん」
そんな話をしながら農地に面した道を2人で歩く。
「あっ、レナじゃない。そっちはひょっとして新しく来た人?」
俺がのんびり歩いていると、不意に女の子の声がした。




