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8 打ち合わせ

 夕食が終わり、そろそろお暇という時間になって俺は大事なことを確認していなかったことに気付いた。


「そういえば、この村の人たちには私のことが伝わってますか? いきなり見ず知らずの者が村の中をうろうろしていたら不審がられると思うのですが?」


「ああ、それは大丈夫。王都から若い男の錬金術師が近々この村に来るということは周知してあるよ。工房を開店するときには改めて村人に周知するから教えてくれ」


「わかりました。それは助かります」


 夕食もいただいたし明日からの必要な話もできた。


 俺は奥さんに夕食の御礼を言って、村長さんと一緒に家を出た。


 これからしばらく滞在することになるこの村唯一の宿屋へ村長さんと一緒に歩いていく。


 外はもう夜で真っ暗だった。


 村長さんの自宅に来たときはまだ夕方で道を歩けるだけの明るさがあった。


 しかし、今は日もとっぷりとくれて完全に夜だ。


 俺がいた王都は特に中心部には街灯があったので灯りを持たなくても街を歩くことができる場所が多かった。


 ただここは王国の中でも辺境も辺境。


 一歩外に出たらそこは真っ暗闇だ。


 街灯は当然ない。


 村の家々の窓からこぼれるわずかな光が見えはするが道を照らすには至らない。


 俺は村長さんが用意してくれた灯りの魔道具を借りて一緒に宿屋への道を歩いた。


 以前は松明などの火を使った灯りが使われていたようだが、やはり火事が怖いということで、今はなるべく灯りの魔道具である魔道ランプを使うことになっているとのことだ。


 魔道ランプは『魔力結晶』を動力源とする道具アイテムだ。


 この『魔力結晶』は、透明な水晶のような石で、文字通り魔力の塊と言われている。


 この魔力結晶を動力源とする道具アイテムのことを一般的に『魔道具』と呼んでいて、最近はいろいろな魔道具が開発されて生活向上に役立っている。


 村長さんの後をついて魔道ランプの明かりを頼りに宿屋への道を歩く。


 手元に灯りがあるとはいえ、周囲は暗い。


 そこらに賊が潜んでいても気付かないだろう。


 いきなり襲われたら対応しようにもできなさそうだ。





 そんな心配とは裏腹に無事に宿屋に着くことができた。


「オットー、来たぞ」


 村長さんが建物に入って中にいた宿屋の主人らしき中年の男にそう声を掛けた。


「おお、待ってたよ。で、そっちが噂の彼かい?」


「初めまして、錬金術師のブランです。しばらくの間お世話になります」


「こちらこそ。この宿の主人のオットーです。ようこそお越し下さいました。田舎の小さな宿で恐縮ですが」


 見たところ、1階のロビーの隣には食堂が併設されているようだ。


 まだ夜も深い時間とはいえないため、飲食しながら談笑する声が漏れ聞こえてくる。


 宿泊客が多いのかと思ったが、この宿では村人向けの食堂を兼ねているとのことで、今いるのは基本的にこの村の人たちだという。


 むしろ宿というよりも普段は飲食店でときどきこの村にやってくる外の人向けに宿もやっているという感じらしい。


 王都や街の宿屋であれば土地の広さの都合から建物は2階建て、3階建てというのが普通だ。


 その場合、宿泊者用の部屋は2階以上にあることが多い。

 

 しかし、ここは辺境の田舎村。


 土地は有り余るほどあるということで宿屋の建物は平家で2階に上がる階段は存在しない。


 宿泊者用の部屋はロビーの奥の通路を進んだ先にあるようだ。


「じゃあ、俺はこれでな。オットー後は頼んだぞ」


 村長さんはそう言い残して自宅へと戻っていった。


 俺はオットーさんに部屋へと案内された。


 部屋といっても街の宿屋のように、廊下に同じような部屋がずらっと並んでいるのではない。

 

 それぞれの部屋が独立した一つの建物になっていて屋根付きの渡り廊下でつながっている。それぞれの部屋はさながらコテージのようだった。


「食事は朝と夜は宿泊料に入っていますので追加料金なしでご利用いただけます。昼食については別料金となりますのでそれだけはご注意を。お風呂は1階の食堂とは反対側に大浴場があります。衣類の洗濯は、宿の水場でご自分でもできますし、料金をいただければこちらでも対応しています」


 オットーさんからそう説明を受け、俺は大浴場で一日の疲れをいやし、部屋のベッドへと入った。




 ――翌朝


 いつもよりもかなり遅い時間に目が覚めた。


 初めての場所にきた緊張が緩んだ反動か、それとも長旅で疲れが溜まっていたのか。


 目を覚ますと既に10時を過ぎていた。


 今日はお昼前に工房で木工屋さんと顔合わせをして内装について話をすることになっている。


 食堂で遅い朝食を済ませると俺は身支度をして工房へと向かった。


 工房の入り口では村長さんともう一人、立派な体格をした身体の大きな若い男の人がいた。


「おっ、きたな」


 村長さんが俺を見て言った。


「おはようございます。お待たせしてしまったようで」


「いや、まだ時間じゃないしな」


「初めまして、錬金術師のブランといいます」


「おう、俺は木工屋をやってるマイクだ。こんな田舎によく来てくれたな。歓迎するぜ」


 俺が若い男の人に挨拶するとそう返された。


「こいつは大雑把そうな性格に見えるが仕事は丁寧だし正確なんだ。そこは安心して欲しい」


 マイクさんは村長さんの言葉に苦笑いしないがらも時間がもったいないからと早速打ち合わせをするため一緒に建物の中へと入った。


「さて、ブラン。どういったレイアウトにするんだ?」


「そうですね……」


 俺は昨日考えたざっくりとした希望をマイクさんに話した。


「なるほど、入り口側の店舗部分と奥の工房との動線を最短に、しかし、外からは見えないようにか……」


 この工房は基本的に一人で切り盛りすることになる。


 お店に張り付くのではなく、工房で作業しながらときどきやってくるお客さんにその都度対応するということになるだろう。


 それならばお客さんが来たときに直ぐに店に出られるようにしたいところだ。


「店舗部分と工房部分は基本的には仕切った方がいいよな」


「そうですね。万が一のときに物が飛び散ってお客さんに何かあっても大変ですし」


「接続部分はどうする? ドアをつけるか?」


「ドアだとその都度開け閉めするのが大変だと思うんですよね」


「う~ん、なら引き戸にするか? それなら多少は楽だと思うが……」


 工房での作業を中断して急いでお店に出たり、また戻ったりという行き来をできる限りスムーズにしたい。


 だからといってそこを開けっぱなしにすると店先から奥の工房が丸見えになってしまいそれはそれで落ち着かない。


「そうだ、天井から布を釣り下げて目隠しにするってできませんかね?」


「布? まあ、できなくはないだろうがカーテンみたいなやつか?」


 カーテンを付けてもいいかもしれないが、俺は学院時代に姫様から聞いた話を思い出した。


 姫様は異国の文化が好きで、何でも遠い異国の中には木や紙でできた家に住む文化の国があるらしい。


 その国では、布を垂らして空間の仕切りに使ったりするそうだ。


「なるほど。ちょっと厚めの布を垂らして、まくって出入りしやすいように切り込みが入っているのか。まあ、これはちょっとうちの扱いじゃないからできそうなところに話をしておこう」


 マイクさんは木工屋なのでそれは仕方ないだろう。


 それ以外にも大まかなレイアウト、店のどこに棚を置くかとか番台カウンターをどこに置くか、工房との仕切りはどうするか、壁紙を張るか、貼るとしたらどういったものにするかを詰めた。

 

 それから工房予定スペースへと移動して、どこに作業台や棚を備え付けるかということを細かに詰めていった。






「よしっ、こんなところか? これならざっと2週間、順調なら10日ってとこだな」


 施工はマイクさん一人がするのではなく、数人でチームになってやるらしい。


 とはいえ、常時木工屋として活動しているのはマイクさんだけで、後はこの村で普段は農作業をしている手先が器用な人たちを仕事のあるときだけ臨時で雇って作業するということだ。


 俺はマイクさんに鍵を預け、「よろしくお願いします」としっかりとお願いしてこの日の打ち合わせは終わった。

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