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閑話2 舞台裏

※ 第三者視点です

 時間は遡って代官と村人たちとの小競り合いが始まる数日前。


「これは魔女殿、今日はいったいどういったご用件で?」


 この日、レグナム王国の国王は午前中の執務を終えて宰相や側近たちと昼食を取り終えたところだった。


 そんな時間に何のアポイントもとらずにふらりと王城にやってきたのは魔女ことアルメリヒである。


 国王たちは昼食のために囲んでいた大きなテーブルの一席にアルメリヒを招待してテーブルを囲んだ。


「以前にあったあの話じゃがそれを受けようと思っての」


「あの話?」


 何の話かとその場の誰もが首を傾げる。


「申し訳ございません。いったい何のお話なのかわかりかねますが……」


「ああ、これじゃの」


 そう言ってアルメリヒは国王に古い紐で縛られ丸められていた羊皮紙をポンと放り投げた。


「これはなんとも古い羊皮紙ですな」


 宰相が目ざとくそう感想を漏らした。


 古いもののかなり上質な羊皮紙であることはこの場にいる誰もが一目見ただけでわかるレベルのものだった。


「中を拝見しても?」


「ああ、もともとはお主らがくれたものじゃからの」


「?」


 アルメリヒの言葉に首を傾げながら国王が丸められた羊皮紙を紐解いていく。


「これは……」


 今とは文字の書体や言葉遣いが明らかに違う。


 かなり古い時代に書かれたものだ。


 それもはるか昔、おそらくこの国が建国される前後の頃の。


 この場にいる者たちは教養があるためその事実に気付くことができた。


 しかし、驚きはそれだけにとどまらない。


「最後の署名、これは初代国王陛下の……」


 すでに400年の歴史を数えるこのレグナム王国では、王族の教養として過去の偉大な先達についての知識が教えられている。


 そしてその中でもっとも偉大とされるのが建国の父である初代国王だ。


 そんな人物が残した功績や書物についての知識は王族としての教養の基礎である。


「これに『大公の地位を与える』とあるんじゃが、そのときは面倒で回答を保留にしとったんじゃ。ただ、ちょっと気が変わっての、受けることにした」


「……はっ?」

「…………」

「…………」


 国王だけではない。


 宰相をはじめ、国王の側近たちはあまりのことに言葉を失ってしまった。


「あの、今さら、ですか?」


「んっ? なにか文句でもあるかの? ちなみに4大公爵家はみな賛成しておるぞ」


 アルメリヒはそう言ってもう一つ丸められた羊皮紙を取り出した。


 こちらは真新しいものだ。


「…………」


 国王はアルメリヒによって差し出された羊皮紙をしげしげと眺める。


 その羊皮紙には『新たな大公家の誕生を心からお祝いする』との言葉の他、4大公爵家当主の直筆の署名が並んでいた。


「しかし、大公家に与えるだけの領地がありませんぞ、それはどうすれば……」


「ああ、それは辺境の王家直轄地を譲ってくれればよい。もともとあそこはお主らに預けていただけじゃからの」


「はあ?」


 辺境の王家直轄地といえば思い浮かぶ場所は一つだけだ。


 何の変哲もない辺境。


 国王自身もどうしてあんな場所に王家直轄領があるのか不思議に思っていた場所だ。


「では、今日からうちは『サルート』大公家と名乗ろうかの。それはともかくとしてそのうちの領地じゃがの、いま帝国から侵攻されそうで危ないんじゃ、ついでにそこには第二王女が向かっておるぞ」

「なあっ!?」

 

 寝耳に水な話に思わず国王は大声をあげた。


 なぜそんなことがわかるのか。


 この老婆を相手に今さらそれを言うのは野暮というものだ。


 突如として降って湧いた非常事態に色めきだつ国王にその側近たち。


「安心せい、帝国兵の1000や2000ぐらいどうとでもなるわ」


「!?」


 混乱する王国上層部を後目に、もののついでにとアルメリヒは第二王女を大公家に嫁として迎え入れる話を取り付けた。


 そしてユミル村で混乱の起こったその日。


 アルメリヒは転移魔法で悠々とユミル村にやってきた。


「ふぉっふぉっ、ここも久しぶりじゃの……」


 そう言って老婆はかつて荒野だったこの場所を感慨深げに眺めた。

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